スタジオ07 眠り姫②

 そんなことを考えていたのがいけないのかもしれない。


 だがこれは不可抗力に過ぎない。


 たとえ、佐倉の右おっぱいが俺の胸に当たっていようとも。

 たとえ、俺の左手が佐倉の左おっぱいをがっちりつかんでいようとも。


 それは全て、不可抗力。意図せぬできごと。




「やっ、やばないかぁ……。」

「……よういっしょにね……よういっしょ……。」




 うぐっ、起こしちゃったか!


 まずい、まずいじゃん。

 俺は別にわざとおっぱい揉んでるわけじゃないんだけど。


 でも、もし佐倉が起きたら、絶対にそう思うだろうな。

 これはまずい。


 今更ながら思うのは、背負うのが無難だったってこと。




 心なしか、佐倉の寝息も変化していた。


 いや、これは寝言!


 俺のよういっしょにつられたのか。


「……しょにねよういっしょにね……。」




 あぁ、新曲って、こんな感じの節なのかな。

 寝言で歌詞を言うだなんて、佐倉ったら地味にうっかりさんだな。

 でもまだ寝ているみたいで助かったよ。


 こうなったら一刻も早く佐倉をベッドに寝かしつけよう。

 でも『にね』って、こんなところに入るんだ。




 コーラスだってのは知ってたけど。ピースにくっ付くのかと思ってたよ。

 番組で新曲聴いて答え合わせだ!


「……よういっしょにねよういっしょにね……。」


 俺は、佐倉を起こさないようにそーっと歩いてベッドの前までやってきた。


 そのときにまた、俺は自分のあやまちに気付いた。




 掛け布団は、めくっておくべきだった。




「……すぴー……すぴー……すぴー……すぴー……。」




 佐倉の寝息がまた変化した。

 というよりも元に戻った。


 これは吉なのか凶なのか、分からない。


 俺はとりあえず、掛け布団の上に佐倉を置いた。

 左おっぱいをつかんでいたことは、なんとかバレずにすんだな。


 このままでは風邪をひきそうだ。

 佐倉をなんとかして掛け布団の中に入れてあげないと。




「……すぴー……すぴー……すぴー……すぴー……。」




 俺は、佐倉の寝ているのとは反対側に行った。

 そして、そーっと掛け布団を引っ張った。


 佐倉の身体は少しずつこちらに近付いてはきた。

 だが、それ以上に掛け布団の方が引っ張れた。


 このままそーっと引っ張ればうまくいきそうだ。


 俺はさらに慎重に掛け布団を引っ張った。




「よしっ!」

「……すぴー……すぴー……すぴー……すぴー……。」




 成功だ。

 俺は掛け布団を引き抜くことに成功した。


 あとは、掛け布団をかけてあげれば、佐倉はぐっすりと眠ることだろう。


 そしてその間に、俺は番組を視聴すればいい。


 完璧だ!




 だが、俺は、直ぐには布団をかけなかった。

 何となくだけど、佐倉を見ていたかった。


 布団をかけてしまえば、佐倉の全身を眺めることができない。

 寝息に合わせて膨らんだりへこんだりする華奢なボディ……。


 俺は、しばらく佐倉を見ていた。


 それはそれで幸せを感じる時間だった。




「……いっしょにねよう……いっしょにね……。」




 また、寝息が変わった。


 それで俺はふと我にかえった。

 よく考えたら、女子の寝顔を盗み見るなんてエロい。

 男のすることじゃない。


 起きたらキモがられるだろう。

 それは俺の本意ではない。


 よし、直ぐに布団をかけよう。




 だけど、それはできなかった。


 もう少し、もう少しだけ佐倉の寝顔を見ていよう。

 そうやってずるずるとつい見てしまう。


 それに、ひじり84の出番までは、あと3分もある。

 ご本人による貴重な情報だ。無駄にしてはいけない。


 だから俺は、0時15分まではこうしていようと思った。




 佐倉の寝息が、また変化した。




「……いっしょにねよう……。」




 正確には、寝言の切れ目が変わっただけ。

 歌詞というよりも、ちゃんとした言葉になっているんじゃないか?

「一緒に寝よう!」って、聞こえなくもない。


 えっ! 佐倉、俺のこと誘ってるのか? 

 寝たふりして俺にベッドインしろって言ってるのか?

 そんな……エロい……。


 でも、俺の勘違いかもしれない。


 もんもんとしてしまう。




「……いっしょにねよう……。」




 さっきよりもはっきり聞こえる!

 ていうか、そうとしか聞こえない。

 でも、違ったらどうする……。


 おっ、確かめる方法があるぞっ。

 それは、番組を視聴して新曲『よういっしょ⭐︎ピースにね』を確認することだ。


 もし、歌詞に「よういっしょ」と「にね」が続けて出てくるなら、これは白。

 切れ目が変わっただけのただの偶然。

 佐倉は俺を誘っていない。


 でももし、この2つが続けて出てこないなら、寝言で続けて言うのは不自然。

 つまり黒だ!




 クロ、クロ、クーロッ!




 佐倉は俺を誘っているってことで、認定しても良いだろう。


「……いっしょにねよう……。」




 ほらほら、佐倉はかなりはっきり言ってるじゃん。


 これだけでクロ認定しても、誰も怒らないだろう。


 だが念には念を入れて、新曲を確認するのが先決。


 ちょうど時間だったので、俺は佐倉に掛け布団をかけてあげて、テレビの前に行った。


 新曲を自分の耳で確かめるために!


======== キ リ ト リ ========


ひじり84の新曲、どんな歌詞でどんな旋律なんでしょうね。


いつもありがとうございます。

今後ともよろしくお願いいたします。

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