スタジオ07 眠り姫①

 『ライブでんがなアイドルだがや』

 放送時間は23時54分から0時24分までのショート番組。


 山吹さくら率いる『ひじり84』グループが総出演する。

 

 山吹さくらがいつ登場するかは週によって違う。


 だが、少なくとも最後まで観れば「おやすみ」のひとことが聞ける。

 お得な番組だ。




 俺は、佐倉と一緒にテレビの前に座った。


 ふかふかのソファで俺の身体は大きく沈み込んだ。

 佐倉はというと、体重が軽いのか大して沈まなかった。


 姿勢が違ったのもあるけど、俺と佐倉の目は全く同じ高さになった。




 ご本人様と同じ目線で番組視聴。

 ちょっとだけ贅沢をしている気分。


「やっ、やばい。もうはじまってる!」


 見逃してたらどうしよう。

 でも、最後の「おやすみ」だけでもいいかな!


 なんて、ご本人を横にしての定型挨拶文を期待する俺。

 佐倉は落ち着いているというか、静かというか、地味に穏やかに言った。




「そんなに慌てないで。出演は……たしか……15分過ぎ……だから……。」

「そそそ、そ、そう、なんだ……まだ10分もあるね……。」


「あっ……ごめん……なさい……言わない……方が……よかっ……た……?」


 佐倉の力ない声が聞こえた。

 同時に、俺の左肩口に佐倉の重さが伝わってきた。


 小さな顔の重さ。子猫ほどもない。

 佐倉が俺に寄り掛かったから。地味に柔らかい肌触りだ!




 はい、言わない方がよかったです!


 俺はこの10分間、

いつはじまるか分からないというドキドキ感を奪われた気分だよ!


 そんなことを言ってやりたい気持ちも失せた。


 ていうか、何かに昇華した。




 それが俺の中にある『守ってあげたい気持ち』だということに気付くのに、

それほどの時間もかからなかった。


 だから俺は、画面を食い入るように観ながらも、佐倉に答えた。


「いやいや、そんなことないから……。」

「……本……当……に……ごめん……なさい……すぴー……。」




 えっ? 今のすぴーって何?




 まさかっ!




 俺は肩の位置がずれないよう慎重に、そっと首を左に回した。

 そしたら予想通り、地味に寝息をたてる佐倉がいた。俺は小声で言った。


「おっ、おいおい。いきなり寝るんじゃないよっ!」

「……すぴー……すぴー……。」


「だっ、だめだ。完全に寝てるぞっ!」

「……すぴー……すぴー……すぴー……。」


「どっ、どうしよう……。」

「……すぴー……すぴー……すぴー……すぴー……。」




 佐倉はよだれまで垂らしていた。


 そうだよな。

 今日は散々キスしたし、山吹ってはしゃいでいたもの。

 疲れるのは当たり前だろう。


 仕方ない。このままでいっか。


 俺は1度はそう思った。




 だが、冷静に考えて、この姿勢をキープして視聴を続けるのは辛い。

 それに、ご本人の証言で出演まではまだ時間がある。


「仕方がない。ベッドに連れてってやっか……。」


 俺はわざと聞こえるような大きめの声で言っては、佐倉の様子をうかがった。


「……ぴーす……ぴーす……ぴーす……。」

「……なんだ、寝息か。俺はてっきり新曲の歌詞かと思った……。」




 ひじり84の新曲『よういっしょ⭐︎ピースにね』の一節かと思ったが、違うみたいだ。

 歌詞が先行発表されたときにピースを連呼するのを知った。


 今日はそのメロディを知れる。


 山吹さくら出演番組を視聴すればね。あと8分くらいか。楽しみ!


 でもまさか、こんな寝息みたいなピースではあるまい。




「……ぴーす……ぴーす……ぴーす……。」


 佐倉の寝息は続いていた。


「……ぴーす……ぴーす……ぴーす……。」


 俺は、佐倉を起こすのを諦めた。眠ったままベッドまで担いでいくことにした。さて、どう担ぐべきだ? 俺は考えた。それはそれは、一生懸命に。


「……ぴーす……ぴーす……ぴーす……。」




 最初にたどり着いたのが、背負うこと。でも……。

 背負ったらおっぱいが当たるんじゃ!

 ていうか、絶対に当たる。

 じゃあ、それでいくか。


 いやいや、待て待て待て。


 そんなことしてて途中で起こしちゃったらどうなる?

 おっぱい目当てだったと誤解されやしないか。

 それって佐倉のことを地味に傷付けないか。それはイヤだな。


「……ぴーす……ぴーす……ぴーす……。」




 次に思ったのが抱っこ?

 だが、よくよく考えると、状況の変化は軽微だ。


 つまり、おっぱいが当たるってこと。

 しかも俺の身体の前面におっぱいが当たる。


 背面にしか当たらないおんぶより罪が重い気がする。

 辞めといた方が無難だ。


「……ぴーす……ぴーす……ぴーす……。」




 さりとて、蹴飛ばすわけにも、引きずるわけにもいかない。どうしよう……。


「……ぴーす……ぴーす……ぴーす……。」




 で、俺がたどり着いたのが、お姫様抱っこ。

 これなら、佐倉を起こさずにすみそうだ。


 同じ抱っこでも、身体の側面からだと、おっぱいに当たる確率は小さい。

 よしっ、決めた。ここはひとつ、お姫様抱っこだ!


「……ぴーす……ぴーす……ぴーす……。」




 俺は気持ちよさそうに寝ている佐倉の身体をひょいっと起こした。

 そして、膝の裏に右腕を通して抱え込んだ。

 さらに、佐倉のわきのしたを俺の左肩にちょこんと乗っけた。


 それから持ち上げたところで少しの間たてた膝で佐倉を支えた。

 ながら、佐倉の右腕を俺の右肩から首の背後に引っ掛けた。


 そしてまた直ぐに膝をおろしつつ、右手で佐倉の脇を支えようとした。


「よういっしょ……っと!」




 俺はまだ聴かぬひじり84の新曲のタイトルにあやかって、小声でそう言った。

 そして、最終的なポジションに至った。

 思った通り楽に佐倉を抱えることができた。


 これも全て、佐倉の体重が軽いから。

 山吹さくらのプロフィールには、体重38kgってある。


 でも、おっぱいはGカップ。

 ある筋からの情報によると、メロン2個分の重さで約2kgらしい。


 つまり、体重の5%以上がおっぱい。その比率って、高いよな。



 触っちゃおっかな……。


======== キ リ ト リ ========


ダメダメダメ! 絶対にわざと触るなんて、しちゃダメですよ。


いつもありがとうございます。

今後ともよろしくお願いいたします。

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