ステージ15 エステ①

 撮影を終えた私は、エステに行った。知らない人のいない名店、高級店。


 山吹さくらとして活躍したご褒美に、社長が買ってくれた店だ。


「いらっしゃいませ!」

「ようこそアフロディーテへ!」

「心ゆくまでお寛ぎください」


「そうか。今日は3コース選べるんだ!」




 アフロディーテは元々、この3人が共同経営していた。


 3人は三つ子で、それぞれに違う技術を磨いた。


 だから、短期間に名店と呼ばれる店になった。


 それを社長が買収し、私が自由に使えるようにしてくれた。


 私は、予約なしでこの名店の全てのコースを満喫できる。




「あら、佐倉さんじゃない」

「どうしたの? 相変わらず地味に浮かない顔をして」

「さては、彼氏にふられたな」


 冗談じゃない。私が坂本くんにふられた事実は今のところない。


 そもそも、付き合ってもいないし、告ってもいないんだから。


「そうかもしれません。だから今日は、3コース全てお願いします」

「分かりました。フェイシャル・バストアップ・レッグの順にいたします」


「佐倉さん、落ち込んでちゃ、かわいい顔が台無しよっ!」

「そうですよ。笑顔、笑顔!」


 レッグ担当の飛鳥さん。さっきは地味って言ったくせに。


 指名が入るところっと態度が変わる。


 ムシャクシャするし、クビにしてやりたいわ。


 けど、七瀬さんの施術を1度味わってしまったら、そんなことはできない。


 むしろ独占したいほど。




「表情筋が大分凝っていますね」


 フェイシャル担当の麻衣さんが言った。


 答えようにも答えられない。


「あー、無理に喋らなくてもいいですよ。施術中ですから」


 だったら話しかけんなって、思う。




 バストアップ担当の七瀬さんが1番はなしやすい。


 三つ子で唯一の真人間。


「学校にはもう慣れましたか?」

「はい。お友達も増えました」


「やっぱり! 恋についてお悩み中って顔してるものね」

「えっ、そんなの、分かるんですか?」


「分かるは。ばっちり分かるわよ! この業界、長いから!」


 やっぱり、この人ははなし易い。


「じゃあ、私どうすればいいのかしら……。」


 会いたいけど会いたくないという気持ち、どうすればいいの?


「分からないわ。さっぱり分からないわよ! カレシいない歴=年齢だから」


 はなし易いけど、恋については初心者なのが玉に傷。






 レッグ担当の飛鳥さんとは、いつも同じはなしをする。


「いつでしたっけ? 誕生日!」

「28日です」


 昨日はなしたって。そして、そのあとも決まっている。


「わーっ! すごい。最早、運命としかいえないわ」

「まぁ、誕生日が一緒ですからね」


「貴女も、山吹さくらFCに入りなさいね。私が紹介するわ」

「もしそうなったら、よろしくお願いいたします」


 ま、そうなることはないんだが。




 一通り、エステで寛いだ私は、地下駐車場に戻った。

 坂本くん、もう戻っていたんだ。


 私はまた、小さな嘘をついた。


 本当は全身くまなく施術してもらった。


 けど、今回は顔だけってことにしておこう。




「あら、おはようございますっ!」


 誰? 知らない子ね。


「おっ、おはようございます」

「私は、あの子。あほの子あの子よ。貴女は?」


 だから、知らんがな。


「はいっ。朝倉プロに所属しております、佐倉菜花と言います」

「奇遇です。私も今日から朝倉プロなの。ねぇ、一緒にユニット組まない?」


 なっ、何様だ?


「は、はぁ……。」

「佐倉、現場で会って、俺が連れてきたんだ。ほら、卒業したばかりの……。」


 現場って、AV撮影現場?


「現場からですって! じゃあ、坂本くんとあの子さん、したの?」


「しっ、してないよっ……。」

「はい。しましたよっ!」


 どういうこと? 坂本くん、嘘ついて……。


 私は、苦しい。


======== キ リ ト リ ========


佐倉、不安で胸がいっぱいのようです。


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