ステージ14 撮影は続く、おしゃべりとともに

 私は、社長の言葉を噛みしめた。


 その間も撮影は続いた。


 社長が、はなしをまとめてくれた。


「サクラが弱くなるか、坂本が強くなるか。どちらかということだ」

「山吹さくらが弱くなるだなんて、ありえないわ!」


「だったら、方法は1つだな」

「……。」


 方法は1つ。坂本くんを強くすることだけ。


 それは、どうすればいいの?




「サクラ。よく思い出すんだな」

「えっ?」


 思い出すって、何を?」


「サクラはすでに、強い坂本に出会っているんじゃないのか?」

「強い、坂本くん……。」


 それは、白馬の王子であり、格好いいということ。


 坂本くんが格好よかったのは、今のところ2回だけ。


 他には……。




 社長が、先に言った。


「巫女装束の撮影のときはどうだった?」

「そっ、それは……。」


 どうして分かったの!


「図星のようだな。他にはないのか?」

「カメラを壊したのを、ひどく叱られました」


 私は、正直だった。




「坂本は、器がちっさいな」

「ちっさいのはそれだけじゃないと思いますけど」


「正直だな」

「はい。今日は何故か正直です」


 社長は、気持ち悪いといった表情を見せた。


 普段は正直じゃないから、この反応も仕方ない。




「正直ついでに言ったらどうだ? いつから坂本が好きになった?」

「それは……雷のときがきっかけです」


 キスの最中に雷が鳴り、私は怯えていた。


 少しでも稲光の影響のない姿勢になりたくて、少しずつ動いていた。


 坂本くんはそれに気付いてくれた。




 社長は、私がどれだけ雷が怖いかを知っている。


「雷か。なるほど。佐倉にとっては、まさに王子ではないか!」

「そうです。坂本くんは、私にとって王子そのものです」


「のろけるな! それで、山吹にとってはどうなんだ?」

「最初は、とるに足らない存在でした」


 それなのに、いつのまにかさくらの心の中に入り込んでいた。




「カメラを壊したとき、一気に間合いを詰められた」

「それです!」


 そうだ。それなんだ。


 山吹さくらを叱り飛ばす人なんて、はじめてだった。


 社長でさえ、そんなことはしないもの。


 なのにあのとき、坂本くんは私の間違いを堂々と指摘した。


 それが、男らしい言動に思えた。




「坂本は、何故そんなことをしたんだ」

「写真撮るのが好きだって言ってました」


「ならば、今日は何故、撮影したいと言い出さなかったんだ?」

「それはきっと、遠慮していたんだと思います」


 遠慮の塊。控えめな性格。それが、坂本くんの1面。


「違うな。坂本は山吹さくらのことをとるに足らない存在にしか思ってない」

「そんな……。」


 社長の言ったことは、真実かもしれない。




 私の中に、坂本くんはいる。


 坂本くんの中に、私はいるの?


「坂本にとって、サクラは恋人の1人に過ぎないのかもしれんぞ」

「そんなのイヤ!」


「じゃあ、どうする?」

「坂本くんを私のものにする」


「どうやって?」

「どうやって……分からない……。」


 山吹って私のものになってと言えば簡単な気もする。


 けど、それじゃダメな気もする。




 分からない。坂本くんの今の気持ちが全く分からない。




 どうすれば振り向いてくれるのか、全く分からない。




 私は、社長の次の言葉を遮っていた。


「方法は、いくらでもあ……。」

「……坂本くんに、会いたい! 今直ぐに会いたい!」


「ならば、15階に行けばよかろう!」

「イヤ……できない……。」


「何故?」

「怖い。坂本くんに会うのが怖い……。」


 正直だったつもり。会いたいのと同時に会うのが怖い。


 はじめての気持ち。




 私はいつのまにか佐倉に戻っていた。


 社長が言った。


「気分転換に、エステにでも行ってこい」

「はい。そうさせていただきます」


 こうして、私は気持ちの正体を知らないまま、エステに出かけた。


======== キ リ ト リ ========


会いたいけど会いたくない。これは、自信のなさの現れでしょうか。


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