ステージ16 さ・か・も・と

 もう直ぐ、私の夢が叶う。

 活動時間1日3分限定アイドルには、できないこと。

 ずっとどこかで諦めていたこと。


 けど、坂本くん!


 坂本くんがいれば、山吹れる。


 3時間キスすれば、3時間のライブができる。

 これは、素晴らしいことじゃない!




「社長。私、やります! やらせてください!」


 気が付けば、私は前に出ていた。

 ライブがしたいという気持ちがそうさせた。

 そうに違いない。


 けど、どうして?

 どうして、社長は微笑んでくれないの?

 どうして、一緒によろこんでくれないの?


 私、何考えてるんだろう。

 社長は社長。ママじゃないもの。

 私のことに、そこまでは構ってくれない。


 バカあほコンビは、大絶賛してくれた。

 うれしい。


「さくらんならきっと、最高のステージになるわっ!」


 経験のあるあゆまりさんからのエール。

 今ならしっかりと受け取れる。


「奇遇です。私もそう思う。私を1日で抜き去った超絶人気アイドルだもの!」


 あのちゃん。知り合ってまだ間がない。

 山吹さくらには複雑な感情を持っているのだろう。


 そんなあのちゃんからのエール、とてもうれしい。




「2人とも、ありがとう!」


 一瞬だけ2人を見遣って言いった。


 そして直ぐに、社長に向き合った。

 さっきっから、全く動いていない。


「教えください。ライブの詳細を」


 社長のこと。既にいろんな仕掛けを用意してくれているんだろう。

 社長がゆっくりと歩き出し、私の方に向かってきた。


「ライブは、4月28日」


 社長は、全部知っている。


「私の、本当の誕生日。はじめて山吹った日でもある」


 そんな素敵な日に、ライブをさせてくれるなんて、うれしい。

 けど、どうして? 心が晴れない。


「昼と夜、3時間を2公演。間にたっぷりキスの時間を設けよう」

「キッ、キス……。」


 坂本くん。キスに反応したの。


「完全なる単独。衣装を変える間も映像で繋ぐ」


 社長の構想は刺さる。




 社長は、私の前を通過した。

 向かった先は、坂本くん。


「たったの1人で。私なんかには想像もできない。素敵!」


 半年前までトップにいたあの子さんが、身震いしながら言った。

 


「会場は、埠頭競馬場。キャパは10万」


 多い。そんなにたくさん!


「10万人! 桁違いじゃない」


 あゆまりさん。あんなに驚いて!

 準備期間は3週間あまり。

 2公演で20万人も、集まるものなの?


 社長は歩き続けると、いつのまにか坂本くんのそばにいた。


「頼むぞ、坂本!」


 社長が、坂本くんの名を呼んだ。

 それはとてもうれしいことのはず。


 なのにどうして? 涙が出そう。


「……。」


 私には、何も言えなかった。


「……わざわざ来たんだ。返事を聞かせろ。さ・か・も・と!」


 坂本くん、まだ固まってる。

 どうしたの? 寝不足そうだし、体調が悪いんだったらどうしよう。


 そんな私の心配をよそに、坂本くんが言った。




「やっ、やりませんからっ!」


 坂本くん。今なんて?


======== キ リ ト リ ========


聞こえなかったフリをする佐倉。


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