スタジオ17 社長は

 俺は言ってしまった。とんでもないことを。


「やっ、やりませんからっ!」


 口が勝手に言っただけ。何故かスッキリした。





「ちょっと、それ、どういうこと?」


 1番先に反応したのが、佐倉。ずっと神経を尖らせていたから。


 俺は、自分でも驚いているというのに、それに応える言葉はなかった。


「山吹さくらじゃ、イヤなんだ!」


 また口が勝手に。この展開、しばらく続きそう。




「どうして? さくらおっぱい、揉みたいんでしょう!」

「揉みたい。すごく揉みたい」


 佐倉が近付いて来た。キスしようとしているのは明白。


 俺の身体は黙ってそれに応じる構え。キスしたいから




「坂本くんっ、揉んでっ!」

「うん。揉むよっ!」


「えっ?」

「揉みたいだけ、揉ませてもらうよ!」


 さくらが身体を退け反らせた。明らかな拒絶反応。


 俺はお構いなしにさくらを追い、角へと追い詰めた。




「ちょっと、やめてよ!」

「どうして、揉んでって言ったじゃん」


 1歩1歩、ジリリと間を詰めた。


「これ以上近付いたら……。」

「近付かなきゃ、揉めないじゃん!」


 さらに間を詰めた。手先がさくらおっぱいにかかる。




「もーうっ! えいっ!」


 その瞬間、俺の身体は宙を舞った。さくらが俺を投げ飛ばしたんだ。


 その距離、10mくらい。


 桜庭先輩のときよりも豪快。普通に考えて死んじゃう距離。


 でも俺は無事だった。ささっと受け身を取り、直ぐにまたさくらを追い詰める。




「さっ、坂本くん……さくらん……。」

「2人とも、どうしたの?」


 俺とさくらの様子にびびったまりなさんとあの子さんが言った。


 そのとき、さくらが佐倉に戻った。




「佐倉、もう1回キスだ!」

「イヤよ。イヤイヤ! 今日の坂本くん、おかしい!」


 佐倉は俺に背を向け小さく蹲っていた。


 その身体は小刻みに震えていた。




「さぁ、佐倉。大人しくしてるんだ!」

「………………。」


 俺は佐倉の肩に手をかけた。


 強引にでもこちを向かせようという構えだ。


 身体が勝手に動いているんだけど、その動きはとても滑らか。


 何故か心地いい。


 そのとき、俺の背に手刀が当たった。




 俺は気を失った。




========




 次に起きたとき、俺は手足を縛られていた。


 変なプレイではなく、マジのやつ。


 誰かいる。


「気が付いたか、坂本」

「社長……。」




 俺をノックアウトしたのは社長だった。


 他の3人は下がっているみたい。


「随分焦っているようだな」

「焦っている。どうして俺が?」


 俺には意味が全く分からなかった。


「惚けるな。佐倉のことを追い詰めた」

「そうか。そういえば俺、身体が勝手に……。」




 そんな言い訳をしてみた。


 たしかに勝手にっていえなくもない。


 けど、ブレーキをかけることはできたと思う。


「で、お前の望みはどこにある」

「おっ、俺の望み?」


 分からない。俺には、俺のことが分からない。


 でも、はなさなきゃ。なるべく正直に。




「信じてもらえるかどうか分かりませんが、身体が勝手に動いたんです」

「ほうー。興味深いな……。」


 完全否定という感じじゃない。


 順を追って話せば、分かってもらえるのかも。




「さくらおっぱいを揉みたかったのは本当です!」

「っそこからはなすか、普通……。」


 まずい。順番間違えたかも。


 でも、大事な順番にはなす。


「はい。そこが一番大事なんです!」




「つまり、坂本は山吹さくらのおっぱいを揉むために生まれてきたとでも?」


 社長、うまいこと言う。それに近い。


 けど、少し違うところがある。


「真逆です!」

「はぁ?」


 はぁ、だよな。やっぱり。




「山吹さくらが、俺におっぱい揉まれるために生まれたんです」


 なんだ、この発言。いわゆる中二病?


「……。」


 社長が黙ってしまった。そりゃそうだろう。


「ていうか、山吹さくらのおっぱいは、他の誰にも揉ませないって思ったんです!」

「……。」




 社長は黙った自分の顔がどれだけのホラーか知ってるんだろうか。


 もっと笑っててくれれば、喋り易いのに。


 ここは冗談の1つでも言うか。


「あのーっ、社長。好きな食べ物って、何ですか?」

「ロールケーキだ!」


 えっ! 俺は2つの意味で驚いた。




 1つ目は、即答してくれたこと。


 2つ目は、答えがロールケーキなこと。


 運命さえ感じてしまう。


 だって、俺、ロールケーキだけは得意。


 世界三大ロールケーキ職人と呼ばれているほど。




「だったら今度、作りましょうか?」

「ほっ、本当かっ!」


 社長の顔が大分ゆるんだ。


 よく見るとかわいい。どことなく、佐倉にも似ている。




「材料さえあれば、いつでも。今日だって!」

「じゃあ、早速頼む。坂本、くん!」


 社長が、俺を坂本くんと呼んだ。


 はじめて坂本と呼ばれたときに比べれば、うれしさは半分。


「それじゃあ、早速この縄を解いてください」

「分かった!」


 社長は従順だった。




 どうせなら、みんなで作ろう。


 俺がリクエストしたら、社長に却下された。


「まずは、坂本くんのマジの味を堪能してからだ!」


 なるほど、社長は味に対して臆病なタイプね。


「分かりました」


 こうして俺は、ロールケーキを作った。


 世界三大ロールケーキ職人の名に恥じない会心のできだった。




 社長がコーヒーを淹れてくれた。


 甘いロールケーキには苦いコーヒーが1番、というのが俺。


 社長はコーヒーにミルクやら砂糖をドバドバ入れていた。


 どんだけ甘くするんだろう。かわいい。


「私、苦いのは嫌いなのよっ!」

「まぁ、いますよ。そういう人。いいんじゃないですか」


「あっ、ありがとう……。」


 社長、なんだかしおらしい。




 しおらしくなった社長。


 本当の意味で大人しくなってもらうには、ロールケーキしかない。


「では、いただきます!」


 社長は行儀良く手を合わせて言った。


 さぁ、食すが良い。俺の渾身作を




「あっ、これ! めっちゃおいしい♡」


 社長の言葉は、ハートが付いているようだった。


 俺のロールケーキが評価されたんだ!


 社長はそれっきり、何も言わずに完食した。


 丸ごと、1本分を。




「まっ、まだありますよっ!」

「じゃあ、いただこうかしら♡」


 またハートが付いているような言い方だった。


 遠慮せずにもう1本、平らげてしまった。


「ご馳走様! おいしかったわ♡」


 止まらない。社長のハートが止まらない。




 生クリームだけじゃダメ。スポンジだけじゃダメ。巻いてなきゃダメ。


 俺のじいちゃんが提唱したロールケーキ三箇条だ。


 俺のじいちゃんは、ロールケーキの人間国宝。


「坂本くんのロールケーキは、3拍子揃っているわ」

「はい。よく言われます」




 俺の作ったのは3本。そのうち2本は社長が完食。


 残る1本は、俺が1切れ食べただけでほとんど残っている。


 社長は当然のように、最後の1本に触手を伸ばした。


「ダメですよ! これは佐倉たちに分けるんだから」

「そっ、そんな。坂本様お願いします! ん? 坂本様? まさか……。」



======== キ リ ト リ ========


社長は気付いたみたいです。


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