ステージ12 おっぱいは、大丈夫だから①

 校門を出た瞬間、最も恐れていた事態に陥った。


 社長が待ち伏せしていた。


 私たちはまとめて軽々とつまみ上げられた。

 そしてポイッと投げ捨てられた。


 いつもの黒いバンの中に。




 でもこの黒いバン、嫌いじゃない。


 だって、もしこのバンがなかったら。


 もしあの日が仕事じゃなかったら。




 私は坂本くんと出会っていない。




 そしたら、下々との出会いはなかった。




 桜庭先輩投げ飛ばし競技を知ることもなかった。




 だから、この黒いバンが愛おしくさえある。




 聴き慣れた声は、私だけでなく、彼をも呼んだ。


「サクラ、仕事が入ったぞ。少年、直ぐにキスしろ!」

「はいっ!」


 能力に目覚めながら、その使い方を知らなかった私。


 それを拾ってくれた大恩人、さくら子社長。


 今度は坂本くんを鍛え上げようとしている。


 ありがたいことって思わないと。




 それにしても、キスしろだなんて、普通は命令しないでしょう。


 なのに何故か私と坂本くんの間には成立してしまう。


 今は、そういう関係。


 それだけの関係。




「……キスって……冗談じゃないよ! こんなところでできるかっ!」


 坂本くんって、チャレンジャーというか、無鉄砲。

 社長に対してあんな言い草、ありえない。


「いいからっ、しようっ! おっぱいは、大丈夫だから!」


 なんでおっぱいって言ったのかしら。


 最近、自分でも意味のわからない言動が目に付く。




 私は言ったそばから坂本くんに覆いかぶさった。


 そして、自慢のあひる口を差し出した。


 坂本くんったら、そんな私の唇にすかさずぱくついた。




 あれ? これってキスって言えるのかしら。


 私のあひる口を坂本くんが加えているだけじゃない?


 唇にはなんの感触もないに等しい。


 今まで何度も交わしてきたキスとは、まるで違う。




 もし、失敗したらどうなるの?


 そんな疑問が頭をよぎる。


 坂本くんはキスもできない無能と罵られるに違いない。


 それはちょっとかわいそう。




 坂本くんに知らせないと。


 今のままじゃダメだって。


 私は、坂本くんの身体の上でモゾモゾした。


 けど、効果はなさそう。


 坂本くんは息を乱すばかりで、現状を理解していない。


 困ったもの。





 黒いバンが音もなく動き出し、社長の声がした。


「仕事は撮影。ある車のPR用。少年の最初の修行とする」


 相変わらず無駄のない言葉。


 撮影と修行という言葉を紡ぎ、坂本くんの気持ちを揺さぶっている。




 坂本くんは単純。だから直ぐにのってきた。


 早速、坂本トングを出撃させて、挫折。


 はやっ、挫折するのはやっ!


 でもここからが坂本くんの真骨頂。


 不死鳥のように蘇るの。




 でも、なんかシャクに触る。


 私が身体を張って伝えたことは伝わらなかった。


 それを社長の一言がきっかけで態度が変わるのだから。


 私はまるで貝のように口を固く閉ざした。


 これは、社長に対するささやかな抵抗。


 坂本くん、許して……。




 坂本くんが動き出す。


 ただジタバタするだけ。


 それでも身体の触れ合っているところは反応してしまう。


 さっ、坂本くん。そんなに慌てないで。




 ここのところにしては珍しく、坂本くんが強引に動いていた。


 もうこれ以上は抵抗できない。


 かえって変な気分になりそう。


 だから私は、唇をいつものように平行にした。




 そのあとは、坂本くんとの無言な舌戦を楽しんだ。




 坂本くんの手を取った。


 強引に恋人繋ぎにした。


 こうやって、少しでも肌を合わせている面積を広げていきたい。


 坂本くんに包み込まれたい。




 しばらくして、周囲が暗くなり車が止まった。


 どうやら、スタジオについたみたい。


「PR対象が未着だ。合図するまでキスを続けろ。返事はなくてよい!」


 言い終わったときにはもう、社長は車から降りていた。


 車内の照明が全部消えた。


 外にも光はないようだった。


 真っ暗な車内で私たちは2人きりになった。




 今はまだ、ビジネスでしかないキス。


 けど私はいつか、坂本くんの自由に口付けを交わしたい。


 そのためにも、社長の用意した修行で坂本くんを鍛えないといけない。


 とりあえずは、おっぱいを克服してもらわないと。




 私は、坂本くんに跨った。


 そして、自由になった右手でYシャツのボタンを外した。


 先ずは私のを。次いで坂本くんのも。


 坂本くん、早くおっぱいに慣れてね。




 この姿勢では、限界もある。


 上に位置している私は、Yシャツを完全に脱ぐことができた。


 けど坂本くんには難しそう。袖が解けない。


 坂本くんったら、身体硬いのね。アソコも硬いし。




 少し休もう。私は坂本くんの身体に我が身を寄せた。


 大分楽になったわ。


 しばらくはこのまま安らぐとしよう。


 だって、気持ちいいんだもん!


 


 坂本くんの骨格を感じた。


 もっとほしい。


 だから私は坂本くんの顔を撫でた。


 そうしたら坂本くんったら、髪を優しく撫で返してくれた。


 愛し愛されって感じ!


 うれしみしかない。




 それにしても、坂本くんはシャイ。


 私がしたこと以上には返してくれない。




 はっきり言って不満。




 だからまた私から仕掛けた。


 坂本くんから動いてもらうための仕掛け。


 私は、坂本くんの手を私の背中にまわらせた。


 坂本くんにブラホックを解いてほしかったから。




 私がここまでやるかってくらい善立てたのは、信じていたから。


 さすがの坂本くんだって積極的になってくれるって。


 坂本くん、震えている。


 けど頑張ってほしい。堪えてほしい。




 坂本くん、頑張って!




 おっぱいは、大丈夫だから。


======== キ リ ト リ ========


おっぱいが大丈夫になると、大人になったなーって思います。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


今後とも、よろしくお願いいたします。

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