ステージ10 クラスのみんなは①
淡い友情ごっこに坂本くんを巻き込んだみんな、許せない!
「坂本くん、遅いよ。早く帰ろうよ!」
「やっ、やぁ。えっと……佐倉くん、だっけ……。」
「あぁ。青木くん、だっけ。ごめん。邪魔しちゃった?」
「いや。いいんだよ。それよりも、君もこのはなしに乗らないかい?」
「えっ?」
何様のつもりなの? 私に山吹さくらのFCに入会しろってこと?
自分で自分のFCに入会するって……。
アリかも!
でも、あなたたちと淡い友情ごっこは御免被りたいわ!
欠陥だらけの友情システム。
そんな暇あったら、外野で指咥えて応援しとけっての。
「果たして、うまくいくかしら……。」
「え?」
「高校生では経済的に厳しいんじゃないかなって思うの」
「だからこうして、みんなで団結してシェアしようって提案してるんだよ」
「そうだよ!」
「水を差すようなこと言いやがって!」
「佐倉さん、会員様に謝んなさいよ!」
会員様は、私に謝れっての!
「まあまあ。みんな、落ち着いて!」
坂本くん、このタイミングで入ってくるの?
それはムリ筋でしょう。
「誰が落ち着いていないんだよ!」
「そうだぞ、坂本」
「俺たちはみんなで応援したいんだよ!」
「そうよ。リア充は黙ってて!」
思った通り、坂本くんは轟沈。
けど、あのしわくちゃの狸みたいな子、聞き捨てならない。
私は多分、坂本くんのことが好き。
付き合っているって勘違いされたら、それなりにはうれしい。
けど、まだ告白されてもいないのに、公認されるのはイヤ。
「それは、おかしいでしょう!」
私は、黙ってはいられなかった。
坂本くんとの現段階での交際は、はっきり否定した。
こうするより方法はなかったの。坂本くん、許して。
そして、ついでに友情ごっこの欠陥を指摘。
さらに言葉を加えた。
私は応援をしてもらいたいけど、FCに入会して欲しいとは思わない。
応援の方法は他にもあるもの。
だったら、身の丈にあった応援でいいと思う。身を滅ぼさないように。
だから、もしFC入会にこだわるなら、自分を成長させてからで遅くない。
そんなことをはなした。
「まぁ、それは一理あるよ。だって俺、バイトすることにしたんだから!」
青木が言った。
入学祝いやお年玉や月の小遣いだけでは費用が捻出できない。
青木はそれを見越して、バイトすることを決めたらしい。
私をファンとして支えるために、自分の時間を売る覚悟だと。
何を呑気な。あなたの時間って、いくらなの?
「なるほど。ファンとして山吹さくらに愛されるために、何事にも一生懸命になる」
「当然、学業や仕事にも精を出し、自然に収入が増える」
「それだけじゃないぞ。恋活にも積極的にならないと!」
「山吹さくらは恋愛教の教祖でもあるもんな」
なっ、何この流れ! みんなバカなの? さくら賛歌が止まらない……。
「うん。異性を強くひきつける魅力がすごい!」
「ちょっと待って。その点は違うわよ。同性の私たちだって魅きつけられるわ」
たぬき、黙っとけ!
あーもう、腹が立つわっ!
狸だけじゃなかった。
「今は非リアでも、山吹さくらを追いかけることで……。」
「現実にいる異性にも興味を抱き、やがてリア充になる」
「そのために、ファンとして活動するのはありなんじゃないの!」
「うん。それは面白い。その方が面白い!」
意外にもクラスのみんなはそれでもファンクラブに入る派がほとんどだった。
信じ難いけど、事実。
「よし! じゃあ、それぞれ誕生日を待って、入会することにしよう!」
「賛成!」
「異議なーしっ!」
「わぁ、歳をとるのが楽しみだなぁ!」
「ようし! みんなでフルコンプを狙おう!」
「オォーッ!」
「違うでしょう! 決定的に経済力が不足していることを自覚しないと……。」
私は富裕層向けのアイドル。
庶民が手を出したら、火傷じゃ済まないのよ。
「そっ、そんなことないぞ!」
「そうよ。山吹さくらは、ファン思いでも有名なんだからっ!」
「普通の高校生がファンだって聞いたら、きっと優遇してくれるよ!」
「山吹さくらは、性格も素晴らしいんだぞ!」
「そうだとも。君がまだその魅力に気付いていないだけなんだ!」
私が山吹さくらの魅力に気付いていないだって?
呆れてモノも言えないわ……。
ファンサービス? それはスポンサーサービスの間違いでしょう。
これ以上話すのは時間の無駄。ここで一気に決着をつける。
私は、坂本くんに近付いた。
そして、唇に指をあてながら言った。
「坂本くん! お願い!」
キスしてくれれば、10秒とかからないで全部解決する。
======== キ リ ト リ ========
山吹さくらは無双する! のか?
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
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