スタジオ02 佐倉と雷鳴①

 キスからはじまる撮影会。3枠目は30分。


 これだけまとまった時間が使えたら、仕事ははかどるだろう。


 絶対に成功させたい。


 そう思っているのは俺だけではない。


 佐倉の瞳も燃えるように熱く光を宿していた。


 俺たちは、運命共同体なんだ。


 でも、30分もキスしっぱなしだなんて、大変そうだ。




「ねぇ、坂本くん」


 不意に佐倉ボイス。本当に地味だな。


 これじゃあ坂本オウム返しは炸裂しない。


「何?」


 俺は身構えつつもなるべく親身になっている自分をかもし出して答えた。


「キスしてるときって、何考えてるの?」

「えっ、キス?」


 俺にとっては意地悪な質問だった。坂本オウム返しでかわした。




 さっき、俺も同じようなことを考えていた。


 キスのとき、相手の考えていることって伝わるのかなって。


 俺の結論は分からないだろうということだった。




 だから俺は、佐倉とキスをしながら全く別のことを考えた。


 それは、隣の部屋の片付けのこと。


 まさかそんなこと考えていただなんて、言ってもいいものだろうか。


 俺が逡巡している間に佐倉が言った。




「さっき、他のこと考えてなかった? その前は私のことだったと思うけど……。」


 地味に鋭いな。


 さっきは隣の部屋の片付けのこと、その前はさくらのことを考えていた。




 ひょっとすると佐倉には分かるのかな……。


 地味だけど、すごい能力だよ。


 ここは隠さず、正直にはなそう。


「実はさっき、部屋の片付けのこと考えてたんだ」

「部屋? 坂本くんの家のこと?」


「違うよ。隣の部屋のことだよ」


 俺がそう言うと、佐倉は隣の部屋の出入り口まで移動した。地味に慌てて。




 俺もそっと背後を歩いた。


 部屋の片付けは道半ばでまだまだ汚い。


 部分的には大分きれいにしたけど。


「うわーっ、すごーい!」


 佐倉はきれいになった1区画をちゃんと見つけて、地味に感嘆の意を述べた。


 俺は鼻が高かった。佐倉すごーいをいただいたのだから。




 この感嘆具合が、地味で俺にはありがたかった。


 ほっとして肩の力が抜ける思い。


 どうせ抜くなら肩がいい。


 もし、さくらすごーいだったらどうだろう。


 俺は有頂天になるあまり、トイレでイッていたかもしれない。


「1時間くらいあれば、全部きれいにすることができるよ!」

「うん。すごいわ。でも……。」


「でも?」


 これは、坂本オウム返しとは少し違う。


 単純に聞き直しただけ。


 佐倉が何を言い出すのかに、俺は興味があったんだ。


 すごく知りたかった。




 佐倉は、地味に恥ずかしがっていた。それが、でもで止まった理由。


 夢にまで見た坂本みなまで言うなをお見舞いするには格好のシチュエーション。


 気付いたのはあとになってのことだけど。


 俺は他人の気持ちやはなしの流れを瞬時に推し量れない人間だと思い知らされた。


 だって、佐倉が言ったのは……。




「キスのときくらい、私のことを考えて欲しいな。山吹っててもいいから……。」




「そうか、そうだよな。ごめん。俺、ひどいことをした」

「そこまでじゃないけど。部屋のことも私の一部だと言えなくはないし……。」


 佐倉はにかみは地味だ。


 地味だけど効く。




「俺、佐倉菜花のことを考えてキスする!」

「えっ? 山吹ってるときでもいいのに……。」


「それもするかも。でも、基本は佐倉菜花のこと。その代わり……。」

「……うん。抱いて……。」


 先越された感半端ないな。


 佐倉みなまで言うなが、うんのひとことに変わり、俺の心をえぐり取った。


 でも、素直に気持ちを伝えられたのはうれしかった。


 俺は、壊れやすいものを扱うようにしてそっと佐倉を抱き寄せた。


 こうして、30分に及ぶキスははじまった。


======== キ リ ト リ ========


30分のキスなんて、大丈夫でしょうか!


いつもありがとうございます。

これからも応援よろしくお願いいたします。

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