スタジオ01 佐倉のホテル③

 佐倉に対する俺の気持ち。


 役に立つためとかそんなのじゃない。


 身体、肉体。さくらボディーやさくら鎖ボーンが好きなだけ。


 いやらしい目で見てそれを消費する。




 俺は、そんな下衆な男ってことだ。




 器もあそこも、なんて小さい男なんだ。




 俺なんかが佐倉とキスして、いいんだろうか。


 さくらが一生懸命ファンのために活動していることに介入して、いいんだろうか。


 いや、いけない。イッたら、いけないんだ。


 佐倉はさくらとしてちゃんと前向いて仕事しる。


 それに比べて……。


 いや、比べるのがおこがましい。チキショーッ!




 俺は、このあとどんな顔をしてさくらに会えばいいんだろう。


 さくらで抜いてさっぱりしたよーって言えばいい? 


 違うな。じゃあ、いっぱい出たよー? 


 そうしたらさくらが、うわぁーっ本当だねーっ顔がキリッとしたねっ


 とか言うのか? 違うだろう。


 絶対違う。


 そうはならない。




 そんなこと言ったら絶対嫌われる。




 俺、絶対にさくらに嫌われたくない。




 じゃあ、どうすればいいのかって?


 それを決めるにも、あまり時間はかけられない。


 俺は、とりあえず1発だけ抜いた。


 そして直ぐにさくらのいる部屋に戻ることにした。




 なるべく、何事もなかった振りをして、さくらの前に出た。


 何してたかなんて、バレたら恥ずかしい……。




 さくらは、何事もなかったかのように撮影を続けていた。


 それを見ると俺は本当に自分が情けなくなった。




 俺が何してるかとか、さくらには関係ないんだ。


 そう思っていた。




「私ね、男の兄弟に囲まれて育ったの」

「えっ!」


 撮影中だというのに、さくらは俺に向かってはなしかけてきた。


 さくらスマイルと一緒に。


「あぁ。マイク、切ってあるから、喋っても平気よ」

「えっ。そんなことしていいの?」


 撮影は続いていた。俺は、それを忘れて返事をしてしまった。


 けど今、マイクを切っているって言ってたから大丈夫みたい。




 どうやらこのときは静止画像のみの撮影だったらしい。


 どうしてだろう。


 さくらが教えてくれた。


「これくれた人ね、ちょっと変わってて。動画を送るのは断られてるのよ」

「どっ、どうして、動画はダメなんだろう……。」


「そんなの分かんない。あまり詮索するのも失礼だし」

「そうか。そうだよな……。」


 元々、音を拾っていないんだったら、何喋ってもよさそうだな。


 ちょっと安心した。




 けど、俺の置かれている状況は変わらない。


 喋ることが許されていることが分かっただけ。


 ならば精一杯の言い訳くらいしておけばいいかな。


「あー、おしっこして、スッキリしたなぁー!」

「何? その冗談」


「いやっ。だから、俺はトイレでおしっこを……。」


 俺はとっさについた嘘を突き通そうと必死だった。


「私、兄弟がいたから、男の子の身体のことは大体は分かるけど」

「えっ?」


「おしっこだったんだ。予想、外れちゃったなぁ……。」


 なっ、何を予想してたんだ?


 俺には口が裂けてもそれが聞けない。




 だって、多分、当たってる。




 男兄弟がいるとか、最強じゃん。


 俺は独りっ子だったから、女子のことがよく分からない。


 俺とさくらじゃ、出発地点からして違う。


 生まれたときからもう負けてるって、勝ち目ない。




 ってかまた俺、さくらと比べて張り合ってた。


 そんな自分に、今日は何度気付いたんだろう。


 これじゃあ、中学んときの二の舞。そんなの俺、絶対嫌だっ!


「……ねぇ、聞いてる? 坂本くん……。」

「えっ。あっ、聞いてなかった。ごめんなさい……。」


「もーっ! おこだよっ。でも、素直でよろしい!」


 さくらにとって、素直なのは高評価なのか。


 だったら俺、素直に全力で今の幸せを手放さないようにしよう!




「で、予想がどうとかだっけ?」


「えっ? ぷっふふふ。違うわ。お兄ちゃんのはなし!」

「お兄さんか。そうでしたか!」


「アイドルになるか悩んでいた頃があってね」

「悩んでた頃な」


 俺は、聞いているという証拠に、オウム返しをした。


「お兄ちゃんに言われたんだ。俺は妹でもヌケるからアイドルになって頑張れって!」

「そうか。ヌケるか。俺も……。」


「……はい。引っかかった!」


 さくらは食い気味にそう言って、俺を揶揄った。


 俺は、恥ずかしいけど、ぐうの音も出なかった。




 さくらによって、俺の嘘は簡単に暴かれた。




 それにしても、さくら引っかけは手強い。覚えておこう。


 けど、少なくとも俺のことが嫌いってわけじゃなさそうだ。


 俺が充分にさくらの役に立っている証拠。




 俺にとっては気休め程度の情報を入手。


 さくらのお兄さんがヌケるって言ったのは本当だって。


 本当にヌイたかは分からないけど。




 はっきりしたことがある。


 俺がさくらでヌイてもさくらは俺のことを責めたりしないってこと。


 最低の男とも思わないってこと。


 それって、相手にされていないってのと同じ意味?




「じゃあ、次枠もキス、お願いねっ!」


 さくらリップにさくらフィンガーを2本当てながらのさくらボイス。


 そしてさくら投げキス。


 その内容はキスのおねだり。




 俺の頭よりも身体の方が、またおかしくなりそうだ。


 けど、うれしかったから俺は素直に言った。


「もちのろん!」


 俺は、さくらに必要とされている。


 今は、それだけでもよしとしよう。




 隣の部屋の片付けがはかどったのはいうまでもない。


======== キ リ ト リ ========


坂本くん、張り切ってます。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


これからもよろしくお願いいたします。

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