スタジオ01 佐倉のホテル②

隣の部屋は、完全な安全地帯ってわけじゃない。




 まず、構造。部屋といっても間にドアがあるわけじゃない。


 2つの部屋は空間としては実は繋がっている。


 だから、同じ空気吸ってます感が半端なくある。


 これは考えるだけで刺激的だ。




 次に、音声。音の通りが割といい。


 佐倉自身は無言だから、声というのはときどきしか出さない。


 けどそのときどき出す声というのがいけない。


 いわゆる嬌声というか、息遣いというか、艶かしい。




 その間にフローリングの床に落ちる服の音が挟まっていた。


 脱ぎました感が半端ない。


 直ぐ隣で何が起こっているかを想像というか妄想を抱くには充分。


 見えないからエロい。さくらノイズの破壊力は半端ない!




 そして極め付けが隣の部屋の散らかり具合。


 佐倉は片付け上手ではないみたい。

 というか、壊滅的に下手。


 着ていた服や学用品や使い方が不明な美容健康系のグッズ。


 それらが所構わず置き去りで、滅茶苦茶になってるんだ。




 この部屋には、佐倉の生活力のなさ感が凝縮されていた。


 制服からステージ衣装から、なんでもかんでも脱ぎっぱなし。汚い。


 だから俺は、片付けることにした。


 全ては、佐倉のためだ!




 先ずは明日も着る制服だ。


 ハンガーに掛けて、風通しの良い日陰に吊るした。


 で、お次は……と物色していると、佐倉が俺を呼んだ。




「坂本くん。そろそろキス、しましょう」

「あーっ、はいはい。今行くーっ」


 惜しい。初動が早ければ、もう少しきれいにすることができただろうに。


 俺は片付けに未練たらたらだった。




 その最中に佐倉が呼んだので生返事とも取れる受け答えをしてしまった。




 俺が片付けているのを知らない佐倉。


 感じのいい態度じゃなかったと思う。




 このときの俺は、俺が佐倉を傷付けているとは気付かなかった。




「ごめん。お待たせーっ」

「坂本くん、おこだよ。遅いよぅーっ!」


 佐倉に怒られた。まぁ、すまんすまん。


 俺は右手で頭をぽりぽりしながら照れ笑いで答えた。




 キスからはじまる撮影会の2周目。佐倉のリクエストは10分。


 キス後の山吹れる時間に限界がないかどうか。


 段階的に探ろうというストラテジーに則ってのこと。


 佐倉にとって俺とのキスは山吹るためのビジネスキス。




 キスしながら考えていることって相手に伝わるものなんだろうか。


 よくドラマや漫画なんかでは伝わっていることもあるように描かれていたりする。


 現実にはどうかなんて、当然知る由もない。


 俺だって、まだ人生4回目のキスに過ぎないんだから。




 佐倉とキスをしながら頭の中で考えた。


 もっぱら隣の部屋をどうやって片付けようかを。


 そして、ときどき佐倉ブレスを聞いていた。


 それはどこか悲し気だった。




 佐倉にとって俺とのキスはビジネスキス。


 気持ちのいいものと思われていないとしても、それは当たり前のこと。


 キス後の撮影は、予想通り順調に進んだ。


 このペースだと10分間ちゃんと山吹れそうだ。




 さくらスマイルが冴えまくっている。見惚れちゃうよ。




「よしっ! じゃあ、次いくねっ!」


 これは不意打ちだ。俺を狙ったさくらボイスの不意打ち。


 撮影中のさくらボイスはカメラに向けて放たれる。


 こんにちは、ありがとう、またねーっ。などなど。


 当たり障りがないといえばそれまでの言葉。




 言い換えれば汎用性が高い言葉。


 録音して持ち帰れば、街で配っているティッシュ1袋分にはなる。


 ワンボイス・ワンパック。


 それを生で聴けるんだから、俺の鼓膜が幸せを感じているのは言うまでもない。




 生でしか味わえないさくらスメルと生さくらボイスのコラボ。


 とてもいいものだ。


「おっ、おぉっ……。」


 俺はいろいろなものを堪えた。


 そして、精一杯に山吹っている佐倉に応えた。


 そのとき、あることに目を見張った。




 さくらが、俺の目の前でおもむろに上着を脱ぎはじめたんだ。




 どっ、どういうこと?




 下はどうなっていたかというと、肌が露出していた。


 もちろん、全裸ってわけじゃない。


 けど、肌面積が布面積を上回っていたのは事実。


 布で隠されているのは、上半身でいうとおっぱいまわりくらい。




 さくらボディーは、ダイエットに成功しましたの見本のように華奢。


 透き通るように白い。おへそは丸見え、脇の下はちら見え。




 さらに面食らってしまうのが、さくらショルダー。


 あんなのにタックルされたら死んでしまいそうだ。キュン死ってやつ。




 それから、さくら……鎖骨? チェーンボーンでいいのか? 


 鎖骨の英語なんて知らんけど、さくら鎖ボーンで手を打とう。

 その、さくら鎖ボーンが丸見えなんだぜ。




 これはすごい。




 あどけない表情を見せることの多いさくら。


 だけどセクシーでもあるんだ。


 さくらに肉はあるのかって思うくらいに華奢。


 おっぱい以外はね。




 俺はさっきまであんなのとキスしてたと思うと、かえって辛い。


 もっと楽しんどきゃよかったって後悔した。




 俺は兎に角舞い上がっていた。


 無敵のさくらボディーをまともに見れないくらいに。


 しかもさくらは驚くことに、そのままの格好で次の撮影をはじめようとしていた。


 俺は思わず声をかけた。


「だっ、ダメじゃん。下着姿で撮影とか、アウトじゃん!」

「えっ? ぷっふふふ。これ、下着じゃないよ」


 さくらぷっふふふは、滅法色っぽい。


 俺はなんか、本当は女子には見せてはいけない姿勢でないと、我慢できない。

 

 何をかは言わないけど。


 俺は実際にそんな姿勢だった。前屈みってやつ。


「はぁ?」




 そこに追い討ちをかけてきたのが、さくら我慢しないで出してきたら。




 えっ? どういう意味だ? さくら様は全部お見通しなのか? 


 俺は脳内ガチ恋口上の変形エロバージョンで応えた。


 言いたいことがあるんだよ(言いたいことがあるんだよ)

 やっぱり、さくら、かわいいよ! (やっぱり、さくら、かわいいよ!)

 好き好き大好き! やっぱ好き! (好き好き大好き!やっぱ好き!)

 やっと見つけたお抜き様(やっと見つけたお姫様!)

 俺が前にかがむ理由(俺が生まれてきた理由)

 それは、さくらで果てるため(それは、さくらに出会うため)

 俺は独りでトイレで励もう(俺と一緒に人生歩もう!)

 さくらで1発出してくる! (世界で一番愛してる!)

 ダ・シ・テ・ク・ル! (ア・イ・シ・テ・ル!)




「……イッてきます……。」




 俺、自分が情けない。


 俺は山吹っている佐倉が、さくらが好きなんだ。


======== キ リ ト リ ========


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る