第43話 修復と迷い
おばあさんの号令で、村の人達も集められ村全体の片づけが始まった。
秋風が爽やかに吹き赤いトンボが楽しそうに飛んでいる傍らで、村は米の収穫期と重なって大忙しとなり、かなりの人数が駆り出されていた。
TVの子どもが見る特撮とかだと、怪獣が大暴れしたあとって、場面が変わると家とかが綺麗に直っているじゃん?あれって嘘だよね?
だってさ、村全体の修復にはかなり人手が必要だったし、時間も費用も掛ってしまったようで、本当に大変だったんだもん。
壊れた家の修復や枯れた植木や木々の伐採等々…。
米の収穫も機械が無い分、人手が必要で大人も子どもも忙しく立ち動いている。
私も手伝えることは、出来るだけ手伝ったけど、役に立ったのか分からない…。
何がどうなっているのか、分かんない内に色々なことが終わっていく感じがした。
そして、秋祭りの開催が決まった。
ご領主様は、お怪我をされていたようだったけど、なんとか化膿もせず本復された。しのさんは、意識が戻り数日間生きておられたが、結局は助からなかった。
最期まで子どものことを気にしていたけど、ご領主様が自分の跡継ぎとして立派に育てるから、心配しなくて良いと伝えると涙を流して喜び、子どもを抱きながら息を引き取った。
暁様は、亡くなってしまわれたけど、とっても綺麗なお顔で眠られたようで葬儀も大変立派に行われたようだった。
世間的には、病死となったようだ。そうすることで、遺された子どもを守ったのだろう。
ご領主様の正室は、世継ぎが生まれたことを大変お喜びになり、自分の子として大切に育てることを約束してくれた。
温かい目をしたお方様は、子どもを受け取ると乳母に預けることもなく、その子を常に抱き、優しくあやし、母になれた喜びを周囲に示してくれていた。
風子ちゃんは、大きくなったお腹に向かっていつも話しかけている。
きっと圭蔵さんのことをお腹の子に向かって話して聞かせているのだろう。
その表情は穏やかで、もう母親の顔になっている。
全ては良い方向に向かっている今、私はどうなるんだろう…って疑問が残っている。
このまま、この村に残っていたいって思う気持ちもある。風子ちゃんの子どもがどう育っていくのか見て見たい…。
でも、村の修復が終わり、秋祭りが来れば、きっと皆は『赤い玉』に残っている月子ちゃんを助ける方法を考えるのだろう。
一番いいのは、この身体を月子ちゃんに返すことなんだけど、そうすると私はどこに行くのだろう。
このまま消えちゃうのかな…。
なんだか怖い…。
私はここではもう必要がないのだろうか…。
実体化した龍神様は、常に私の横にいて、ニコニコ微笑みながら手を握っている。
まるで、もう離さないぞって考えているみたいだ。
いや、実際そう想っているのだろう。
だって永い間待っていたんだもんね。
でも、私は『ちょうこ』さんではないし…。
どうしたらいいんだろう。
◇◇◇
秋祭りの前日になって、おばあさんが私を自室にまで来てほしいと呼びだした。
緊張する。何を言われるのだろう…。
着物の衿をぎゅっと伸ばして、おばあさんに声を掛け襖を開けた。
そこには、正座をしたおばあさんが待っていた。
「お座りなさい。」
黙っておばあさんの正面に私は座った。正座にも慣れたなぁなんて呑気なことを考えながら…。
相変わらず、龍神様は私の傍らに手を握りながら座っている。
戦いの後、全く話をしない龍神様が何を考えているのか、分からない…。
「お戻り様は、元の世界に戻りたいのじゃろう?」
いきなりの直球質問で、驚いて声が出なかった。
「わしはな、先代が言っていたことを思い出していたよ。
わしは、この村を裏切ることになるって言葉じゃ。
しのがお戻り様を襲ったときに、逃がしたのはわしじゃ。
そもそも双子が生まれたときに、一人を屠らなかったことも本来ならば裏切りとなる。
この家は、この村を守ることが務めであるし、龍神様のご加護を頂くために、双子を育たたせないことが重要であったのじゃ。
双子の存在は、龍神様の復活を意味し、復活するということは、この村のご加護を無くしてしまうことに繋がる…。
今までは、そうやって双子の成長を阻止しておったのじゃ。
浅ましい人の悪知恵だったと思うよ。
だから、双子が生まれたときには、必ずどちらかを屠る必要があった。
しかし、わしはそれをしなかった。
また、お戻り様が居られるときは、その守りを強固にし、傷つける者があれば排除しなくてはならなかった。
わしは、しのが身ごもっていたことも知っておったから、それもしなかった。
そして、今じゃ…。
このまま月子の代わりにお戻り様がここに留まれば、この村への龍神様のご加護は続くであろう。
だが、わしはお戻り様を元の世界に戻そうと思っておる。
戻りたいのであろう?
違うか?」
「戻れるものなら、戻りたいです。
でも、それでこの村が不幸になるなら、そんな考えは捨てます。
だって、この村が好きになっちゃって…。大切なんです。この村が…。」
「ありがとう。
でも、お戻り様の人生がそれでよいのか?
月子のこともある。
お戻り様が元の世界に戻らねば、月子はあのままになってしまうだろう。
戻られよ。
戻って元の生活で思うままに生きておいき…。」
「でもやって?」
「秋祭りの『復活の舞』が恐らく戻る道となると考えておる。
誰も戻った者はいないが、ずっとあの舞だけは受け継がれていることを考えれば、それが正解じゃろう。
お戻り様の世界でも、あの舞はあったであろう?」
「はい、ありました。でもどうやって?」
「分からないが、明日の『復活の舞』にお戻り様も一緒に舞うがよい。
きっと、道は開かれるであろう。」
「はい…。よろしくお願いいたします。」
おばあさんの部屋を出てから、私は元の世界に戻れなかったらどうなるんだろう…ってことばかり考えていた。
龍神様の顔が、すぐそばに見えた。
初めてヒトらしい動きをしたので、びっくりしてしまった。
『元の世界に戻りたいのか?』
「戻れるものなら…。」
私の言葉を聞いた龍神様の表情は、また元の微笑みに戻ってしまった。
私が戻ってしまったら、龍神様はどうするのだろう。
何だか可哀想になってしまった。
私は、自分の願いばかり優先していてよいのだろうか。
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