公団住宅、姉弟の諍い

ここは小佐藤家のリビングです。小佐藤広道とその妻の由紀恵が5分5分で家賃を払っている奈良県K市のニュータウンの団地。ゴールデンウィークの真っ只中ではありますが真夏日、その日差しが、強く強く、リビングを熱しております。

長女の小佐藤藍がリビングで中学校の課題をしております。休み明けに英単語の小テストがあり暗記を強いられております。小佐藤藍は単語帳を作ることはしません。ひたすら大学ノートに書いて覚えています。おっと、手が止まりました。そして冷蔵庫から100%果汁のオレンジジュースを取りだしてミニーマウスがプリントされたグラスに注ぎました。そして中学生の彼女は、中学生らしい悪ふざけ、もとい小佐藤広道が晩飯どきに缶チューハイ(安心価格のイオンブランドであります)をニヤリとしながら飲むのを思い出しました。小佐藤藍、悩んでいます。これを飲めばどうにも鬱陶しい英単語の暗記によるストレスから少しは解放されるのではないかと。

ええい、ままよ。

古典の時間に覚えたフレーズを心で叫んで、まるでグレープフルーツが洗濯されているようなパッケージのそれを手に取り、オレンジジュースを飲んだ後のグラスに注いで一気に飲むと思っていたよりも苦くて臭くて刺激があった。

それを、小佐藤大勝が見ていました。小佐藤大勝は小佐藤藍の2つ年下の小学生であります。しかし小佐藤藍よりも既に背は高く、小佐藤藍の低身長というコンプレックスをひどく刺激します。

あ、姉ちゃんお酒ノンでる~。と小佐藤大勝は言います。お父さんに言いつけるわ~。

小佐藤藍、小佐藤広道と顔を合わせるのが面倒な年頃。説教を聞くのが嫌、というより説教をされると腹が立つ。原因を作ったのは私だがわざわざこの程度のことで煩わしい思いをしたくはない。

大勝、黙っててや。いやや。なんで。お姉ちゃんが悪いことしたのが悪いんやんか。

なるほど悪いことをしたのが悪い。これに反駁する言葉が、小佐藤藍は見つけられません。

うるさい。

おおっと、小佐藤藍、そのバスケットボール部で日頃はボールを叩いてる手で弟の頭をペシと叩いた。

なにすんねん。負けじと小佐藤大勝は自分を叩いた姉の白く細い腕を、掴んで、押した。小佐藤藍たまらずバランスを崩した。

追撃、今度は小佐藤大勝が姉の頭を拳骨で殴った。これは痛い。思わず小佐藤藍泣きそうになった。しかし小佐藤大勝は追撃やめず。二度三度四度と殴る。

小佐藤藍、自分は平手だったのに拳骨で殴る弟に腹が立った。自分より数多く殴る弟の鳩尾に肘で突き刺す。よろめく小佐藤大勝。それを好機とみた小佐藤藍は爪先で内臓のありそうな箇所を蹴り突き飛ばす。リビングの床に頭をぶつけた小佐藤大勝、ゆるやかに立ち上がり、凶悪な目付きの姉の顔を睨み付けた。そして立ち上がり、彼女の顔に唾をはいた。

思わず小佐藤藍、目を閉じた。

すると小佐藤大勝、姉の頬を平手打つ。それは彼女が最近ニキビが沢山できたため真っ赤になっているところだ。吹き出物で荒れてゴツゴツしたそれを叩いた瞬間、ひょっとして叩いてはならないところだったのではないかと暗い心地に囚われる。

その予感は的中していた。

小佐藤藍は殴られた痛みよりもニキビを触られた精神的な衝撃で涙を流した。目の前にいるのは自分を辱しめる人間以下の肉の塊である。ならば容赦する必要はなし。

小佐藤大勝の鼻を拳で殴りのけぞった後頭部の髪を乱暴に掴んで地面に引き寄せつつ迎え撃つように膝を差し出した。

小佐藤大勝は意識を刈り取られる。


本日の姉弟喧嘩は姉に軍配が上がった。ちなみに小佐藤藍は処分し忘れた缶から飲酒が発覚した。

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