喧嘩観察
古新野 ま~ち
改札前、酔漢vs文学少女
近鉄T駅前の広場はタクシーの乗車口。こちらではたった今、泥酔して排水溝にゲロを吐いている男がおります。男の名は深町進といい、夜勤明けに家にあったストロングゼロの35缶を全て飲み干したため最寄りのコンビニでロング缶を3本購入して飲みながら帰路につこうとしたら夕陽にあてられたのか胃が痙攣をおこして嘔吐しております。
さらさらの胃液でございます。
おおっと、そこに近隣の高校生である福田まゆみが通りかかりました。福田まゆみはこのT駅で酔っぱらいを見るのは珍しくないものの、やはり嫌悪感がつのり、深町進に軽蔑した眼差しをほんの一瞬送ります。それに深町進気がつきました。
なんか文句あるんか、深町は唾液を滴ながら恫喝した。福田まゆみ無言で定期券を取りだし改札に向かうが、鞄をつかまれて進めなくなった。
背後をとった深町進が福田まゆみを振り回した。パンプスはタイルにひっかかることはなく、福田まゆみ、尻餅をついた。
深町進、優勢でございます。
おれが酒飲んだらあかんのかメスガキ、と福田まゆみを罵ります。福田まゆみ助けを求めて辺りを見回しますが、残念ながら二人を中心に半球状の結界でも敷かれたかのように通行人は避けていきます。
駅員も見てみぬふりでございます。遠巻きにスマホで撮影している福田まゆみと同じ高校の生徒がいます。ちなみに彼はこの数分後にTwitterに投稿します。するとその投稿は後日、ワイドショーに取り上げられて二人にモザイクがかかっているものの深町進には全国から大小さまざまな罵声が浴びせられることになります。
さて視点を現在の深町進と福田まゆみに戻しましょう。
福田まゆみはゲロで濡れた排水溝から逃げるようにじわじわと後退します。しかし深町進、これを許さず、福田まゆみの脚を踏みました。太腿や脛や足首や、踏み潰してやると勢いよく。
福田まゆみは手にした鞄を振り回します。おおっ、鞄の角が深町進の、鼻に、あたった。しょせん鞄と侮っていた深町進、思わぬ痛みにたまらず攻撃をやめた。
深町進、鼻をおさえて、自分が流血していることに気がつくと、無性に腹が立ってきた。
なにすんねん、くそジジイ。福田まゆみは深町進から距離を取ろうとさらに後退し、改札に駆け込んだ。
すると深町進、ストロングゼロを1本取りだし福田まゆみの後頭部に向かって、投げた。
あぁ、延髄に、直撃。これは痛い。不意打ちに、福田まゆみは足をすぜらせてダウンする。
改札を乗り越えた深町進、どうも腹の虫がおさまらず。投げたストロングゼロを福田まゆみに振りかけた。これは、卑劣な行為。思わず福田まゆみ悲鳴をあげた。
深町進は自分の鼻を折った(正確には折れていません。深町進は気が動転しており勘違いしております)鞄の中身を確かめる。なんと鞄のなかには2キロはありそうな分厚い小説がありました。これで殴られれば痛いのも当然です。バーコードの横に定価5000円の文字を見つけ、自分のかつての日給に迫りそうな金額に、尚更腹が立ちました。当然ながら、こちらの本は、学校の図書館の本ですが、暗い情念に囚われた深町進はこれに気がつかない。
生意気な女だ、とその本を投げ捨て、倒れた福田まゆみを蹴った。
しかしその足を福田まゆみは掴んで、アキレス腱にボールペンをさした。
鞄の中から取り出していました。
これは痛い。刺さったボールペンをさらに押し込みます。
福田まゆみ、なんとか立ち上がり、本と鞄を拾って、ホームに向かって走り去りました。
よってこの勝負は福田まゆみの逃走により深町進の勝利でございます。なお、深町進は無力化したところを遅れてやってきた駅員に取り押さえられ、警察に突きだされます。
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