幕間 戦場の魔女

 霧に満ちた谷で灰の煙や大粒の水飛沫があがる。

 地上の魔女が指を噛むと、周辺を飛んでいた魔女が何をされたかも分からないまま沼に落ちた。

 不思議な魔法だ。出動前に上官から説明を受けていても、多くの者はこの里に伝わる魔法を理解していなかった。まだ空中に残っているのはこの里の魔女と接点のあった者ばかりだ。

 沼地の魔女は音のない音で攻撃する事ができる。そう聞かされて私たちは耳当てを配られた。しかし魔女隊こんなところにいる者たちはそもそも他人なんて信用しない。情報や物資は〈自分〉が必要としたとき何かと引き換えに貰うものだ。おごった魔女の多いこの隊で上官というものに従うのはごく少数だった。

 それでも魔女隊が重宝される理由は、ひとえに魔法という戦力になるからだ。ただの人間相手に有利をとるには魔力の強さは不可欠だった。しかし、人間たちはどこのどんな魔女の力が強いとかどうとか言うことを知らないので、どこぞの里と人身売買の契約を結んだり、今のように見つけた里を襲って戦力を集める。

 

「あんた何でこんなところに!」

 

 地上から声をかけてきたのは沼地ココの魔女のようだった。顔に見覚えがある。

 

「あのときの魔女ヒトじゃない。良い仕事を紹介してくれて助かったわ」

 

 空から手を振ると足元の魔女はまた息を大きく吸い込んだ。耳当てをしていてもよく通る声だった。

 

「あんたの隊の主人とは話がついてるはずじゃないか。なんでこの里を襲う!」

 

「さぁ。用無しになったか、それともあんた達が不義理を働いたんじゃなぁい?」

 

 後から人間の兵隊たちも来るだろうし逃げるように忠告してやったが、聞こえたか聞こえなかったか、沼地の魔女は指を口に当てた。

 何かされる前に近くにあった岩を魔女の上に転がす。死んだか逃げたかは霧がなびいてよく見えなかった。

 

「あんな大声で話してたんじゃここから離れないと」

 

 魔女の里を襲った日は手当が出る。それを家に持ち帰るのが私の楽しみだ。

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