第59話

 瑠衣は白状した。












「トオヤがいない一週間」














 瑠衣は、熱が篭った目で彼の瞳を見つめた。


















「会いたいという気持ちに支配されて、自分をコントロールできなかった」















 左手の甲を瞼の上に当てて、瑠衣は自分の表情を隠した。



















「こんな風になったのは、生まれて初めて」
















「…」






















「私が私じゃ無くなった」















 瑠衣は、浅くため息をついた。














「今までの自分は、この感情を知らなかっただけ。それを、思い知らされた」





















 トオヤ。





















「寂しいよ、トオヤがいないと」















 あなたに、魔法をかけられた。


























 生まれて初めての、恋の魔法。























 瑠衣は左手の下から、涙を流した。
















「私は、これから一体どうすればいい…?」


























 トオヤは、瑠衣の左手をそっと握り、

















「顔を見せて」













 と言うと、















 少しずつ、その手をずらしながら、



















「こっちを見て」














 と、顔を近づけた。


















「俺も、一緒」






















 彼は、間近で瑠衣に微笑みかけた。
















「瑠衣がいないと、寂しくておかしくなる」



















 彼は瑠衣の唇に、そっとキスを落とした。



















「いつも、ずっと一緒にいたい」


















 もう一度、長い長いキス。
















「うつるから…」




















 瑠衣が言うと、彼は













「うつしたら治る」













 と優しく言った。














「…」















 彼は瑠衣の耳の横にある髪に触れ、













「瑠衣は」














 ひんやりとした手で、彼はゆっくりと瑠衣の頬に触れた。










「人を恐れない」
















 彼は逆の手で、瑠衣の涙をそっと拭いた。
















「話しかける事を恐れない」
















 彼は瑠衣の熱い首筋に指で触れた。

















「俺の魔法使いだから」























 そして、月の光のような笑顔を見せた。
















「元気になったら、また魔法見せて」



















「…」
















 彼は、瑠衣だけを見ていた。



















「瑠衣が、瑠衣なら、それでいい」





















 そして、瑠衣にそっと近づいた。
















「瑠衣が、欲しい」















 彼は、瑠衣を見つめてから目を閉じて、




















「瑠衣を愛してる」













 と。また、

 一度だけ、キスをした。






































 再び、目が覚めた。





 どのくらい、時間が経ったのだろう。

 今は、何時くらいなのだろう。














 頭と体が、とても軽くなっている。










 熱が下がったのだ。








 辺りを見回すと、どうやら昨日寝かせてもらっていたベッドの中だった。










 ここは外国のホテルの様な室内。

 中は広いが、ベッド以外は洗面台とテーブルセットだけで、あとは物がほとんど無い。







 トオヤが同じ天蓋付きのベッドに入って、瑠衣に腕枕をしながら眠っている。







 彼の寝顔を見るのは、何度目になるだろう。








 急に、心臓が音を立てて鳴り出してしまう。










「触れてもいい…?トオヤ」











 起きているかも知れないから、念の為に声をかけてみる。








 …返事はない。










 じゃあ、いいよね。










 …寝てるみたいだし。










 瑠衣は彼の唇に、そっとキスをした。












 すると。













「…駄目」











 彼は、ゆっくりと、瑠衣の体を抱き締めた。



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