第39話

 目が覚めると、ふかふかの広いベッドの上だった。






 上を見ると、一面の星空が見える。




「…?」






 ここは、…ガラスドーム?












 自分が寝ていた場所は、なんと部屋の中ではなかった。














 ここは薔薇の温室のようであり、どこかの王宮の中にある庭園の一部のようでもある。







 色とりどりの薔薇が、きちんと管理された状態で、美しく咲き誇っている。













 何故、薔薇庭園の中心にベッドがあるのか、さっぱり理解できないが。













 星空はまぶしく、ただ美しく、瑠衣を見下ろしている。









 今の時間は、真夜中なのだろうか。



 自分の手のひらを確認し、また愕然とする。


 また自分は、ぬいぐるみ『シルク』になってしまっている。





 ふと見ると、

 トオヤが自分を抱きしめたまま、すやすやと眠っている。






 彼の体温が、温かい。








 そして、とても気持ちいい。









 トオヤ。







 ありがとう。












 あと、もう少しだけ、

 あなたと一緒に眠っていたい。





















 あなたの、優しい腕の中で。

























 朝。


 明るい日差しが眩しくて、目が覚める。





 トオヤはすでにベッドの中で起きていたようである。長い睫毛越しに、少し薄茶色がかった美しい瞳が、こちらをじっと見つめていた。




 彼の滑らかな、透き通るような肌に、

 ぬいぐるみのこの手で、ちょっとだけ触れてみる。







 柔らかい…。









「…起きたの?瑠衣」




「…わっ!」






 び!!!…びっくりした。




 動かないから、目を開けたまま寝てるのかと思った。



 …そんなわけないか。




「起きた。…トオヤ、ここはどこ?」






「撮影所」







「さつえい…?」




「父親の仕事の関係で、いくつかこういう場所がある。昨日の夜遅くまでここで仕事していて、そのまま寝たみたい」





「何の撮影をしていたの?」








 トオヤはこちらを見つめたまま、微笑んだ。






「今回は、ドレス」







 そういえば。

 雅が、トオヤはプロだと言っていたっけ。







 時々学校を休むのは、この仕事のせいなのだろうか。


 聞いてみようか。







「あなたは、プロのデザイナーなの?」











「うん。まだ修行中だけど」











「…どうして今まで、教えてくれなかったの?」











「まだ半人前だし。ずっと、迷ってたから」














「?」

















「何を作るかを」















「そうなの…」














「答えを出す必要は、無い気がしてきた」















「…」
















「瑠衣に見てもらいたいものを、作る」











「…!」













「作りたい時に、作りたいだけ作る」


















「何を作るかは、それほど重要じゃ無い」












 ……。












「瑠衣が起きたら、また話す」









 トオヤは一瞬、『シルク』の中の瑠衣に、呼びかけているような表情を見せた。










「瑠衣、俺と一緒にいて」












 トオヤは、ぎゅっと『シルク』の瑠衣を抱きしめた。












「好きなんだ。瑠衣が」












 トオヤ。












 どうすればいい。












 何か、言うべきなの…?












「返事はまだ、しなくていいから」












 ありがとう。












「うん」












「学校、一緒に行こう」















「え?この姿で?」



















「うん。だって、本当の瑠衣はずっと眠りっぱなしだし」














「…どのくらい?」



















「あの事件から、2週間。瑠衣は、病院に入院したまま、目を覚まさない」









 2週間?!











「俺は瑠衣に会いたくて、『シルリイ』に頼んで、呼んでもらった」







「本当の瑠衣に、早く会いたい」





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