第28話

 近すぎる!!!






 …無自覚なの?!滝君。






 …密着しすぎ!!!






「あ…」






 彼は、瑠衣から決して目を逸らそうとしない。






 ……ヤバイ。




 …ドキドキドキドキドキドキする。




 嫌悪感は、無いけれど、




 このままじゃ、顔が赤くなりそう。




 …意識しちゃダメだ。




 …意識しては…。





「解き直してみて」





 …一体、何なんだろ、この動悸は!!



「はい…」




 誰にでもこうなるわけ?!

 …本当に、自分に腹が立つ。



 この密着シチュエーションに、ただ弱いだけ?




 男の子に免疫がなさ過ぎるだけ?





 …こういう時、意識しないようにするには、どうすればいい?!





 情け無い。


 まるで訳がわからない。

 自分の事なのに。




「…そっか、そうだね。これ、間違ってた」



 瑠衣は計算し直して、自分の回答を書き直した。






 他の3人もまた、彼と瑠衣のただならぬ雰囲気にドキドキし、赤くなりながらそれを見つめていた。








 滝君の家からの帰り道。

 戌井君、東條さん、漆戸さん、瑠衣の4人が駅の改札口前まで歩いている最中、東條さんはいきなり、小声で切り出した。


「あれは…滝君さ、絶対に佐伯さんの事が好き、だよね」


「…そうですよね。…絶対…」



「…え?滝君が、何?」


 瑠衣は、先を歩いていたので2人の声が聞き取れず、もう一度聞き返してしまった。


「…」


 戌井君だけは、少し赤くなりながら無言で歩いていた。


 瑠衣が聞くと東條さんは、口元に笑みを浮かべて、こう言った。


「さっきの佐伯さんへの密着は、…わざとだったわ、完全に」


 漆戸さんも、頷いた。


「私も、そう思いました」



 ……?!!!!



 …滝君が?






 戌井君は、この話題を無理矢理断ち切る様に、

「じゃ、また明日」


 と言って、反対方向の電車のホームに向かってサッサと行ってしまった。


「今日はありがとう、戌井君!」


 女子3人は彼の後ろ姿に向かって、聞こえる様にお礼を言った。


「明後日からテストだし、私達も今日の所は帰りますか。修学旅行の時にでも、ゆ〜〜っくりこの話しましょ!」

 と、東條さん。


「そうですね。今日はお疲れ様でした!テスト頑張りましょうね」

と、漆戸さん。


「うん、また明日ね」

 と、瑠衣。ちょっと、色々聞かれてしまいそうだったのでホッとした。


 とりあえず、テスト頑張ろ。

 瑠衣は気持ちを切り替えようと決めた。












 テスト初日、トオヤは久しぶりに、10分程遅刻して学校に登校した。


 …やっと会えた。


 朝のホームルームが終わると、教室の中で6日振りに彼に声をかける事が出来た。


「久しぶり!トオヤ」



 顔を見た途端、瑠衣は何だか急に、ホッとしてしまう。

 彼の席の近くまで移動し、自分から話しかけた。


「瑠衣」


 トオヤは瑠衣に気づいて、白い薔薇がゆっくりと花開く様に、微笑んだ。


「今朝、帰って来た。今日、家まで迎えに行けなくて、…ごめん」


 瑠衣にだけ向けられている、トオヤの破壊力が半端ない、神々しい微笑み。

 出会った時は変わらなかった表情が、こんなにも変わるなんて。


 瑠衣の心臓が、急に音を立てた。

 そんな自分に、ひどく慌ててしまう。



「そんなのいいよ、疲れてるのに悪いし。毎日迎えに来てもらう約束してたわけじゃ、無いんだから!」



「あの男、現れなかった?」



 …まだ、心配してくれている。


 まるで、彼の目には自分だけしか映っていないように、見えてしまう。




 …気のせい、気のせい。





「大丈夫だったよ!ありがとう」




 つい、周りを見回してしまう。

 …結構、クラス中の注目を浴びている。






「じゃあ、明日から」


 トオヤの声を近くで聞くだけで、今まで自分は、こんな風に落ち着かなくなっていただろうか。


「毎日迎えに行く」


 彼の声は、こんなに綺麗な中低音で、耳の奥に響く声だったろうか。



「約束する」



 …もう少しで吸い込まれてしまうような心地になり、キラキラし過ぎていて、眩しすぎて、直視出来ない。


「…約束はしなくていい。本当に悪いから!」


 思いっきりトオヤに見とれてしまっていた瑠衣は、急に我に返った。




 この気持ちとも、いずれはきちんと、向き合わなければならない。



 まずは滝君への自分の気持ちだ。





 でも本当にこんな難題、自分の中だけで、答えが出せるのだろうか。




 誰かに相談したい。




 …誰に、話そう。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る