アシンメトリー

第11話

 雑然とした理衣の部屋には、久世君と理衣と発明品の数々だけが残された。



「…」


「…」


「…姉と、友達なの?」



 理衣が硬い表情のまま、抑揚の無い話し方で、こう切り出した。



「うん、今日から」



 久世君が答えると、理衣は彼をじっと見つめた。




「…姉は、意外とややこしい」


「…?」


 理衣は久世君の目をもう一度見てから、ペコリと軽くお辞儀をした。



「どうか、姉をよろしくお願いします」



「うん」



「…」



「…ややこしい?」



「多分、そのうちわかると思う」



「…?」





 久世君は、理衣にこう切り出した。


「何か、お礼したい」


「お礼?」


「スマホ直してもらったお礼」



 理衣は、目を見開いた。



「別に大した事では…」



「助かったから」



「…」


「…」



「久世君、いい人」




「別に…」




 久世君は、照れたように理衣から目を逸らした。



 この一連のカタコト会話を瑠衣がもし聞いていたら、ぎこちなさ過ぎて可笑しくなり、吹き出してしまっていたかも知れない。



 カタコト人間の2人が、ようやく打ち解けた瞬間だった。




 理衣の表情から、ようやく硬さが取れた。




 彼女は、背後にある雑然とした棚の上から、プラスチックの黒い携帯ケースらしきものを取り出した。よく見ると、左下にデブォルメされた小さな可愛い白猫の絵が描いてある。



「これは、シルリイ」



「シルリイ…?」



「試作品12号で、まだ改良中」



 左手の中にある『シルリイ』という名の携帯ケースを見つめ、理衣は呟いた。


「でもシルリイ最新作。出来立てホヤホヤ」



「?…携帯ケース?」



「ただの携帯ケースじゃない」



 久世君は、どう見ても携帯ケースに見えるそれを、じっと見つめた。



「会話できる。あと、姉を呼べる」



「…は?」



「たまに呼べない時もある。だから改良中」




 理衣は手の中にある携帯ケースを、久世君に渡した。



「お礼はいらないけど、これを時々試して、経過を私に教えて」




「…」



 その時、階段の下から瑠衣が2人を呼ぶ声が聞こえた。




「姉には内緒で」




 理衣は立ち上がり、口元に人差し指を立てた。








 母の強い希望により、久世君は夕飯を瑠衣の家で食べて帰ることになった。


 瑠衣は先程まで夕飯の支度を手伝いながら、根掘り葉掘り母から久世君との事について質問攻めに遭い、うんざりしていた。



「どんどんおかわりしてくださいね〜」



 母はご機嫌である。

 テンションMAXである。



 いつもより、豪華な食卓。

 家にイケメンが遊びに来たのは初めてだったので、物凄く気合いが入ったに違いない。


「ありがとうございます」


 久世君が我が家の食卓で、揚げたての唐揚げを一緒に食べている。


 …かなり、不思議な光景。


「久世君、瑠衣と理衣、そっくりでしょう。家族以外2人の違いを見分けられる人、いないのよ〜」


 母が言うと、久世君は瑠衣と理衣を交互に見比べた。


「そうなんですか」



 瑠衣は味噌汁を飲みながら、これを聞いて、ある事を思いついた。


「後で、ゲームしてみようか。理衣とお揃いの服があるからそれを2人で着て、久世君が私達を当てられるかどうか」




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