第12話
母はそれを聞いて、楽しそうに笑った。
「私でも時々間違うのに?友達になったばかりなら、当てるのは難しいわよ〜。でも、面白そうね〜!」
久世君は、話に乗った。
「当ててみたい」
瑠衣と理衣は面白くなってきて、2人で顔を見合わせた。
「じゃ、食後にね」
「佐伯さん」
久世君がこう呼ぶと、
『はい』
瑠衣と理衣は、同じタイミングで見事にシンクロしながら返事をしてしまった。
瑠衣は笑って、この状況をちょっと考えてから、こう提案した。
「久世君、私の事は『瑠衣』って呼んで。理衣も『佐伯』だから、紛らわしいし」
「うん」
理衣はそれを聞いて、こう言った。
「私の事は『理衣』でいい」
「うん。…じゃあ、俺の事は『トオヤ』で」
「トオヤ…君?」
「『トオヤ』。呼び捨てでいい」
息を吸って、吐くときに思い切って言った。
「トオヤ」
「うん」
トオヤは、少し表情が柔らかくなった。
理衣は、それを見ながらこう言った。
「では我々も、呼び捨てでいい」
「うん」
トオヤは、頷いた。
「さっき何を言いかけたの?トオヤ」
なるべく自然に聞こえる様に言ってみたけれど、この呼び方に慣れるまでには、かなり時間がかかりそうだ。
「ゲームが終わった後、瑠衣の部屋も見てみたい」
「…私の、部屋?」
あの部屋?!!
「駄目?」
「…いいけど、ビックリするよ」
理衣は瑠衣の発言を聞いて、少しニヤっと笑った。
「変態部屋ね」
瑠衣は、理衣をキッと睨んだ。
「あなたには、言われたくはない」
「私のは、全部発明品」
母は若者の邪魔をしないように、心の中で微笑みながらこの会話を聞いていた。
夕飯の片付けか終わると、母がウキウキしながら手伝ってくれて、別の部屋で瑠衣と理衣に全く同じマカロンカラーの水玉ルームウェアを着せ、リビングのソファーに座るトオヤの前に登場させた。
髪型も全く同じため、動かなければ同じ人間に見せるのは簡単だ。
「どう?久世君。どっちがどっちだか、わかる?」
母がトオヤに、声をかけた。
トオヤは2人を、じっと見つめた。
「左が瑠衣で、右が理衣」
当たりだ。
母、瑠衣、理衣の3人は、おお!!と感嘆の声を上げた。
「まだ一回目だし、本当に見分けられてるかわからないよ?」
瑠衣はトオヤをからかう様に、こう言った。
理衣は頷いた。
「まぐれの可能性もある」
トオヤは
「間違えない、と思う」
と返事をした。
母はもう一度、別の部屋で2人の姿を見えなくしてから、再度トオヤの前に登場させた。
すると。
「右が瑠衣で、左が理衣」
トオヤの回答は、当たっていた。
その後何度かゲームを続けたが、トオヤは2人をパーフェクトに見分けてみせた。
「すごい!間違えなかった人は、初めてよ」
母は感動して、トオヤを絶賛した。
「どうしてわかるの?」
瑠衣は少し、悔しい気もしてこう聞いた。
「瑠衣は、左肩が少しだけ下がってる」
それを聞くと瑠衣は慌てて、自分の左側を見つめた。
「理衣は、瑠衣よりも口をきつく閉じてる」
理衣は口元を意識し、また強く引き結んだ。
「そうなんだ…」
言われてみなければ、わからない事まで。
「他にも色々、細かい違いがある。見分けるのは割と簡単」
よく観察してる。
もしかしたら彼は、瑠衣よりも観察能力が優れているのかも知れない。
まさか顔だけでは無く、姿勢までチェックされていたとは思わなかった。
「ゲームは完敗。すごいね、トオヤ」
トオヤは嬉しそうに、頷いて見せた。
「来るとわかっていたら、少しは片付けたんだけど…」
瑠衣は引き返したくなりながら、自分の部屋へとトオヤを案内していた。
「それじゃ、見せてもらう意味が無い」
彼は階段を登りながら、瑠衣の後をついてきた。
瑠衣はため息をついた。
見せるしか無いのか…。
2階に上がって手前にある、自分部屋のドアを開けて、彼に見せた。
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