第10話

 食事が終わり、連絡先を交換しようとして、お互いにスマホを取り出した、その時。


「あれ?」


 久世君は、自分のスマホを見つめながら、妙な表情を見せた。


「どうしたの?」


 瑠衣が聞くと、彼は自分のスマホの画面を見せてくれた。


「この携帯…おかしい」


 画面の色が真っ赤になっている。

 こんな画面を見たのは、初めてだ。


 瑠衣も携帯を覗き込んだが、原因はさっぱりわからない。


「変だね」


 どこを押しても触っても振っても、反応は無し。


「故障かな」


 彼は溜息をついた。


「帰りに携帯ショップ寄って、直す」


 それから少し残念そうに、

「明日学校で、佐伯さんに連絡先教える」

と言った。


 聞くと、最寄りの携帯ショップは電車を乗り継いで行かねばならず、駅からもかなり歩かなければならないようだ。



「あ!」



 瑠衣は、いい事を思いついた。



「久世君、携帯ショップに行かなくても、すぐに直してくれる人、いるよ」


 彼は、目を見開いた。



「誰?」



 瑠衣はニヤリと笑った。



「私の妹」




「…双子の?」




「そう。機械は得意なの。科学者だから」







 結局、しばらく動物園を2人で回った後、久世君は瑠衣の家について来た。


 スマホを直す為。


 瑠衣は6日前に出会ったばかりの、今日友達になりたてのクラスメイト、しかも超イケメン男子を、自宅に連れて来てしまったのだ。



 16時過ぎに小さな一軒家の呼び鈴を鳴らすと、鼻歌を歌いながら、瑠衣の母がインターホンに出た。


 玄関のドアを開け、母は一瞬固まった。


「まあっ!!!」


 母は、久世君のあまりの美しさに仰天し、頬をピンク色に上気させ、感嘆の声を上げた。


 事情を説明すると、久世君と瑠衣に家のリビングに上がるよう促してから、超特急で理衣を呼びに行った。


 しばらくすると、2階から理衣の声が聞こえた。


「部屋に来ていいよ!」



 2人は2階に上がり、階段を登った突き当たりにある、理衣の部屋のドアをノックした。


「理衣、ごめんね突然」


 ドアを開けながら、瑠衣は妹に声をかけた。


「いいよ。おかえり、お姉」


 部屋の中は、ごちゃごちゃとした発明品で溢れていた。棚の上はもちろん、机の上までも占領している。


『ボイスタイピング・ゴールデンライオンタマリン』


『白猫・シルリイ』


 という、本人以外にはまるで意味のわからないラベルが、至る所に貼ってある。


 足を踏み入れようにも、どこを踏んでいいのか、さっぱりわからない。


「あ、そこ入らないで。まだ部品が散乱してるから」


 瑠衣は、慌てて出した足を引っ込めた。


 置き場が無い発明品は、床の上にもダイナミックに散らばっており、物凄くカオスな状況である。


 仕方なく、入り口付近にて待機する。


 瑠衣は久しぶりに理衣の部屋の惨状を見たが、あらためて思う。


 とても女子の部屋とは思えない。


 理衣はパソコンに向かっており、何やら作業の途中だったようだ。


「久世君、こちらが妹の理衣です」


 久世君に自分を紹介されると理衣は、初めて顔を上げた。


「はじめまして。理衣です」


 理衣は、久世君の顔を見つめた。


 瑠衣は妹を見て、表情が急に硬くなったと感じた。


 無理もない。


 この家に、同じ年頃の男の子を入れるのは、初めてだったから。


「姉がお世話になっています」


「久世です。よろしく」


 久世君は、理衣に軽く会釈した。


「スマホ、見せて」


 瑠衣は、あらかじめ理衣にメールで状況を説明してあった。


「いきなり画面が真っ赤になった」


 理衣は久世君からスマホを受け取ると、目にも止まらない速さで画面をタップし、たった10秒でそれを直してしまった。


「起動障害」


 理衣は、続けた。


「という症状だった。もう直った」




 早!!!



 もう直っちゃった。



「ありがとう…」



 久世君は、スマホを驚きの表情で受け取ってお礼を言うと、目を見開いて理衣を見つめた。



「すごい」




「得意分野なので」



 理衣は少し得意げに言った。



 何だか不思議だと思っていたら、瑠衣は急にピンと来た。




 この2人、似てるんだ。




 カタコトでしか喋らない所とか、なかなか笑顔を見せない所とか。





 無事に連絡先を交換し終えた所で、一階から母が瑠衣を大声で呼ぶ声が聞こえてきた。


「ごめん、ちょっと呼ばれてるから下に行ってくるね!」


 瑠衣は2人を残して、部屋を出て行った。




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