第3話

「久世君?!」


 しまった。


 まだ友達にもなっていないのに、あまりの偶然に驚いてしまい、瑠衣は彼に思わず声をかけてしまった。



 迷惑だっただろうか…?



 話した事もない同級生の、しかも女子に話しかけられるなんて、彼にとっては非常に迷惑で嫌な出来事なのかも知れない。



「佐伯さん」



「!!」



「すごい偶然」



「そうだね。…こんにちは」



 さっき学校で会ったんだから、『こんにちは』は変だったかな。



 彼はこちらを見て、無表情だけどきちんと会釈してくれた。



 苗字を、覚えてくれていた。

 瑠衣がクラスメイトだという事も。

その事に、かなりビックリしてしまった。



 しかも、もっと表情に嫌悪感を漂わせるのかと思ったが、意外と普通に話してくれている。



 はっと我に返り、彼に話しかけた。



「偶然だね。私ここが好きで、一人でフラっとよく来るの。年間パスポートも持ってるんだ」



 瑠衣はちょっと躊躇ってから、思い切って彼に質問してみた。



「久世君は水族館によく来るの?」


「うん」


 彼は、速いスピードで競うように泳ぐマグロを見つめながら、答えた。


「札幌にいた時は水族館が近所にあったから、そこによく行ってた」


 彼は続けて

「ここは初めて」

と付け加えた。


 ごくごく普通に、短い口調ではあるけれど、ちゃんと質問に答えてくれる。



 勉強以外にもちゃんとあるんだね、

好きな事。




 彼は瑠衣に、聞いてきた。


「ここ年間パスがあるの?」


「?うん」


「俺も作りたい」


 彼は、急に近づいてきた。


「…」


「どこで作れるの?」


 ハッ!と、我に返る。



「…あ、一階だよ。案内するね」



 一階のカウンターの方へ彼を案内しながら、心臓が力強い和太鼓の様なリズムを刻んでしまう。



 ヤバイ。

 固まってしまった。



 彼の滑らかな透き通るような肌と、少し薄茶色がかった美しい瞳を、迂闊にも至近距離でじっと見てしまい、全身フリーズしたのだ。



 美しすぎる…。

 今までに一度も見た事が無いタイプの美形。



 彼は、もしかしたら滝君よりもモテるかも知れないな、と瑠衣は想像してしまった。



 まさか、彼と最初に話せる様になるなんて。



 嬉しい。



 無口な人の様だから、誰とも話したがらないのかと、第一印象で勝手に思ってしまっていた自分。


 恥ずかしく思う。



 だから、ちゃんと話してみたいのだ。


 本当は、もっと。誰とでも。




 無事に年間パスポートをゲットした久世君は、相変わらず無表情ではあったが突然、思いもかけない事を言い出した。



「お茶してく?まだ4時半だし」



 一階の売店横にある、館内のカフェを指差しながら。



「さっき」



 売店前の看板に書いてあるメニューを眺めながら、久世君は続けた。



「人と話す事が大好きで、お茶してくれる友達を募集してるって言ってたし」



 瑠衣は目を見開いた。

 自己紹介の言葉まで、ちゃんと覚えててくれたなんて。



「うん。お茶したい」



 思わず、即答してしまう。


「じゃ、いこ」


 彼はサッサとカフェに入っていく。



 ああ、もう、…どうしよう。


 男の子と2人でお茶するの初めて。


 それだけじゃない!!!


 超絶美形で現実離れした、ちょっと変わってる久世君と2人。


 頭がクラクラしてきそう。




 なんて日だ!



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