第2話

 全員の自己紹介が終わって昼休みになると、瑠衣を含め前回のクラスが一緒だった4人で、何となく話し始める。


「去年のクラスのみんなとは、バラバラになっちゃったね」


 瑠衣に最初に話しかけてきたのは、東條泉美さん。


 彼女は見目麗しく、華やかな雰囲気を纏う高嶺の花。告白した男子は去年1年間で二十二人。全員見事に玉砕である。


 苗字ではなく、彼女とは名前で呼び合える仲になりたいな、と瑠衣は思っている。


 去年1年間、特別仲が良かったというわけでは無かったが、お互いに話しやすく、何となくいつまでも会話が続く間柄だった。


「1年の時のクラス、みんないいヤツらで楽しかったのにな」


 次に会話に参加したのは、滝佑太郎君。


 中学、高校共にテニス部所属。大の運動好きで、爽やかなイケメンである。


 女子に絶大な人気があり、校内では公式?ファンクラブまであるそうな。彼は2年生ヒエラルキーのトップに君臨している。


「まだ緊張するよ…。胃が痛い」


 最後に会話に加わったのは、戌井鉄也君。


 男子にしては小柄で痩せており、姿勢を良くしていると割とカッコいいのに、いつも猫背でボソボソ喋り、常に自信が無さそうなオーラを発している。そのせいもあり、少々残念な雰囲気を醸し出している。


 本日のお弁当はこの4人で一緒にとる事になり、話に花が咲き続ける。


「印象的だったねー、久世くん」


 東條さんが茶髪ロングで少しカールがかかっている髪を食事前に後ろで束ねながら、こう呟いた。


 瑠衣は頷いた。


「うん。1番インパクトのある人だった」


 彼は昼休みになると、ふらりとどこかへ消えてしまった。天気もいいし、屋上か中庭にでも行ったのだろうか。


「戌井とどっちが勉強出来るかな」


 滝君がちょっとからかう様に戌井君に声をかけると、戌井君はパンをかじりながら首を傾げた。


「理系は得意だけど、僕は苦手教科もあるから、どうだろう」


 戌井君は一年生の時、常に学年トップであった。この県下1優秀な四条南高校では、校舎裏の掲示板にテスト結果総合1番から100番までが大きく貼り出される。


 瑠衣は中学時代、あらゆる欲望を押さえつけながら歯を食いしばって勉強し、どうにかまぐれでこの優秀な高校に、分不相応の状態で入学してしまった。


 高校に入ってからは授業のスピードについていけず、1年生の時は1度も100番以内に入った事が無い。


 次のテストで久世君が戌井君を抜くかどうかは、みんなの注目の的になりそうだ。




 放課後になると、皆それぞれの部活へと散っていく。



「じゃ、佐伯さん、また明日ね」


「うん。部活頑張ってね」


 東條さんは瑠衣に手を振ると、部室棟2階にある演劇部へと向かって行ってしまった。


 瑠衣の在籍する手芸部は火曜、木曜、土曜だけであるため、月曜日の今日は自由だった。



「どこか寄って帰ろうかな…」




 瑠衣は急に思いついて、帰宅途中の駅近辺にある水族館へ一人で行く事に決めた。


 世界中の海の生き物たちを見て、癒されてから家に帰りたくなったのだ。



 『マリン・マーメイド』は、この街の中では最も大きな水族館である。瑠衣の足でじっくり見て回ると、3時間以上はすぐに経ってしまう。



 中に入ってしばらく歩くと視界が広がり、2階に上がると大きなガラスドームが見えてくる。


 元気そうに群泳するクロマグロをしばらくボーっと見ていると、驚くべき人物がすぐ横でマグロを見ていた。


 自己紹介で1番目立っていた美少年、久世 透矢君だった。



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