僕らの願いは月に咲く

桜部遥

意識が遠のきそうな日の話

記憶の片隅にでも置いておけばいい

——それは、今よりも少しだけ遠い昔の話。


ある日、一人の少年は不思議な少女に出会いました。

その少女は、少年よりも幼くておっちょこちょいで放っておけない子でした。

そんな少女は少年にある頼み事をします。


一緒に店を手伝って欲しい。


心優しい少年はその願いを引き受けました。

それからは学校へ行き、そのまま彼女の仕事を手伝うのが少年の日課になりました。


少女の仕事は少し変わっていて、『願いを叶える館』の店主だったのです。

しかも不思議な事に、その館は夜にしか現れないのだとか。


少年は少女から名前を貰い、その館で沢山の不思議な事を体験しました。

幽霊、妖怪、悪魔……少年はそんなこの世に存在しない者達に触れ、世界が変わったのです。


もちろん戸惑った時もあったけれど、少年はいつしかもっとこの館で、少女と共に沢山の事を経験したいと、そう願う様になったのです。


けれど、そんな最中。

少女は少年に別れを告げました。その理由を聞いてみると、少女はみるみるうちに姿を変えました。

少年よりも小さかったはずの少女は、少年より沢山の歳をとっていました。

それは明らかに、人間とはちがう生き物。

本当の姿を見せた少女は、少年に言います。


私はもう二度とこの世界に現れる事は無い。


少年は、それを信じたくありませんでした。

どうにかして、彼女を此処に留めておく方法を探そう。

けれど、少女は少年の前から姿を消してしまいます。



絶望の中、少年は一人ぼっちになってしまいました。

そしてそれから月日は流れ、その館は今日も夜に現れます。

少年はいつしか青年になり、館で一人生きていました。


青年の目的はただ一つ。

少女を再びこの世界に呼ぶこと。



仲間を作り、沢山勉強をして、けれど少年は今日も一人ぼっち。



そして、青年は願うのです。

少女に会わせて欲しい。

その願いの代償を、青年は知らないまま。


青年は、名前を変えました。

少女がくれた名前を少しだけいじって、『紫蘭』と名乗る事にしたのです。

その名前に、全ての感情をぶつけて。



そして彼は、自分の願いを叶える為なら、どんな手段でも厭わない。

友達も仲間も、全てを欺いて、自分の願いを叶えていくのです。


——これは、独りぼっちの青年が、願望と渇望を叶える物語なのだから。

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