第6話 ERIN 様のゆび指す未来
「ふつうの人ですね。」
ふっとLingは笑った。
「淡白という意味かな?」
「いつわりごとがないという感じです。」
「ああ、君は噓つきだからね。」
真夜中にLingとの会話を思いだした。相手に接する時に自分のうわ言のような腹の内を知られてしまうことに少々動揺したからなのかもしれない。
終わり目のないほど狂乱し殺し合う殺戮集団たち、ここはセイレーン。
—―Middle ages が目覚め始めた時代。
その中で殺戮集団はもぎ取られていく身体に対する恐怖を押し隠すために、これまらセイレーンのおよそ中心に位置する『How any』の人々を国土を巻き添えにしようと引っ搔きまわしていた。『How any』の人々は動乱に紛れるように静かに亡命していったが、おかしいかな、1人だけ国に残っていた。
「今日は悪い日だ。」
ばつが悪い。今日はわたしは非番の日なんだ。いつも通り術を知らない壊れてるのかな?悪すぎる頭脳を使って生きる道を見つけるだけのはずだったんだ。
(なんて声をかけようか?)
流れ来る殺戮集団から浴びせられる銃弾も怒鳴もまぁるで、規則正しく緻密に作られた星々の流れみたいにその人—ERINの身体を避けていく。
まさか非番のはずのわたしの力では及ばないはずだから、何かの偶然か、彼の緻密な計略の上なんだろうね。
(お茶飲む時間もありそうなんだよなぁ。)
どうしてだろういつも暇さえなく怒り狂うか泣き狂うのに。
そうだ、わたし一人でなかったから、世話を…いわゆるお労いの言葉をかけなくっちゃいけないって、先生に教わったかな。
「ねぇ、やめてよ、そんなに犯罪者の血をまき散らして噛みついて
引っ掻いたり汚れたりなんてしないでよ。」
—―これは戦争だ
ERINはそんな顔をし眉間に皺を寄せ、またすぐに犯罪者に向き直り血の嵐を起こす。
「違うの、そうじゃないの。怒りのおさめ方もわからなくなるくらい
狂わされる運命に巻き込まれるの。」
ERINは背中を向けたまま頷いていた。
「庭の家畜から襲えばいい。
戦いには順序があるんだから、(人型犯人は、今は)もう充分よ。」
わたしは、極めて冷静でいられると思ってた。ERINが荒れ狂うことで更にわたしが非番になっていたし、きっと今なら落ち着いていられると思っていた。
庭ではあの男—
「鶏肉、与えられたものなら食べていいのよ。
その代わり、飛んでる鳥は食べないでね。情動がもろいの。
だから子豚ちゃんや牛ちゃんみたいに上手に輪廻転生、
食物連鎖のレールにのれない子なの。」
ERINはいつの間にか手を休めてこちらを向いていた、らしい。わたしの脳はいつだっておぼろげだ。
「血、ついてる。」
「え?」
ERINはわたしの薄着を指さした。ぺらぺらのTシャツを伸ばしてみた。伸ばさずともくっきりと血痕がついている。
「僕は?」
わたしはERINを見た。右手の人差し指と中指以外は、キョロキョロ見渡してもどこにも汚れはついていない。
「キスをしようよ。」
「うん。」
「自分の使い方は僕…他人の方が良く知っているものだよ。」
「わたし?」
血の味がしたら嫌だなと思った。
だけど
これが最後ではないかと恐れるくらいの淡くて優しいキスだった。
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