第5話 Pardon why...Episode 1

「Pardon why...。」

 今日きょう(と呼ばれた少女)は、そんな時はいつも海底の底の泡の下に心を置くことを意識していた。

人の心は不思議なもので、この悲惨で残酷な世界において私たちは、かしこく身を守る方法を心得ていた。

 「細胞がなんだかの理由で損傷し、9割しか完全ではない状態で危機的な状況に瀕すると、綺麗に細胞同士の結合をはがして別の空間へ逃げようとする力が働く。」

 今日きょうは、内緒だけれど東の中心の大国Re Worthリワースのちょっと洋かぶれな小さな建物の一室にいた。薄暗いその部屋で木製のアンティーク机の上のケースに並べられた爛々と輝く宝珠を見つめていた。

 「原初、それは私たちは、残虐な殺戮集団に支配され身動き取れない中で金属より堅く宝珠のように美しい姿で命を守ってきた。今よりも残虐死が隣り合わせの世界で、上手に自己の分子同士をばらけさせたり、結合させたりする機能を磨き上げていた。」

 ふっと茶色く焦げた柔らかな髪が揺れた。ガーネット様だ。

 「君は、それで僕たちを捌く方法を思いついたの?」

 「誰しもがそれを考えていた。だけれども私たちは想像以上に精密で

  それを行うのに躊躇していた。」

 ガーネットは焦らされるのは嫌いだという目で今日に言った。

 「その手から流れる物質はなぁに?粘着性の。」

 「分子ひとつひとつに少々不快で気味の悪い思いをさせるもの。

  そうやって脅かして分子を自由にばらけさせたり結合させたり

  さらに綺麗に自ら細分化させたりして空間移動さえ可能にさせるの。」

 今日は笑ったが、ガーネットは言った。

 「だけど、君は死刑になる、はずだったんだよ。」

 ガーネットは綺麗に磨き上げた青銅の鏡を今日に見せた。

今日と呼ばれた少女の顔は陥没し目も鼻も口もどこにもない。はて、どうやって視力や聴力などがあるものやら。


 「今日、死刑の日だから。」

 あれから80年近くたち、国際社会は平和条約を締結し、大戦争から遠ざかっていた。殺戮集団によって隔離された存在であった今日きょうは、その身を変えて国籍を手に入れ工場の労働者として社会に存続していた。

(何度そんな言葉を耳にしたんだろう。)今日きょうは皇帝の若そうな面立ちから発する残酷な言葉をいつも心の奥底から受け止め消化していた。単細胞亜種生物だった今日は、その身を好んで分化する性質を持ち自分をいくつもに分けては自己を慰め合い愛し合う生体だった。社会に身を置くときにその自己コントロールの一部を失い、そしてまた少々自由になる分化された身体もまた最近、国際社会の大国『トライアングル』に献上させられていた。

 「おっと、最近により亜種から抜けてになったんだっけな。」

 肉の人形の服に包まれまるで普通の工場作業員の今日は、その場に似つかわしくない独り言をつぶやいた。そして笑っていた、笑っていた。いわゆる賢者のはかりごとの中で回るのが楽しいらしい。

しかし、寸暇、目が騒めいた。

(ああ、例の)

 目の裏側の生態維持用の目は、離れた所の空間を映し出していた。

(碧さん、だったかな?)

 今日は指先で製品をちょんと弾き、おっとと持ち直す。

(遊ぶのは楽しいだけれど、彼はつよくはないな。)

碧は、顔をしわくちゃにして睨みつけている『トライアングル』お預かりの分化したもう片方の今日を指さした。両手には光の剣二丁携えている。

(彼は銃の方が似合うんじゃないかな。)

 「そんな顔じゃできないんだろ。大人しく…。」

 碧さんは言った。どうも小耳にはさんだ情報によると、天下のはかりごとに身を預ける今日きょうの存在が歴史的殺戮犯罪者の勘に触ったらしい。殺戮者も命だ。死に瀕すると膨大な爆発を起こし皆巻き添えになるし、元々は大集団でありお互いに殺し合ったあとに生物体からほぼ物質になった身体が猛威を振るってくることもあるのだから。今日きょうと親しく笑っていた碧は、今日きょうの片割れの暗殺を命ぜられたようだ。

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