第3話 Lord of Heaven と 作られし英雄 ② ー大牙抄録暦 5300年
小さな海老の姿をした今日(きょう)と、それに追随する海老の群れは、海の沿岸を周り、東の陸の中心の大国『リ・ワース』へ辿り着いた。西での騒ぎを知っていたリ・ワースの人々は海老に驚きもせずに仰々しく迎えた。国民に紛れて品位のある
小柄な男性が現れた。
「今日よ。そして今日をとりなす兄弟たちよ。
よく西の紛争を鎮められた。
だが、殺戮集団たちは、負傷したとはいえ、こちらに向かってきている。
本日は、西のLord of Heaven様の誕生祭。
こちらもこれまでに許されなかった神様信仰や宗教を大々的に祀ろう。
内密に製造されていた宗教的証の神像を政治御所や国営施設に飾り
我々の権力と宗教の壮大さを見せつけ自由を獲得するための闘争としよう。
我々の祀り上げた神像を見たら殺戮集団の怒りに触れるだろう。
そうして引き付けてその間に我々の兵器により打撃を与える。
そして弱ったところで今日たちが殺戮集団の注意をひき
東端の小国『リーヴンイ』へ追い込みそこで大打撃を与え平定しよう。」
リ・ワースの人々は、物凄い速さで政治御所や国営施設、街路地を神像や旗、豪華な宝飾飾りで飾り立てた。
闘争の混乱を感じさせない豪華絢爛な国の風景。権力誇示ともいえるその様相だった。そしてこんな豪華な飾りつけを瞬時にできてしまうリ・ワークの人々の確かな技術力を感じさせた。
そこへ殺戮集団は嵐のより荒々しく向かってきた。その姿は人型から抜け出し闇色のつぶてが無数に集まり蠢いている様相である。周りを掻きむしるように傷つけて猛スピードで動き、権力の象徴の神像や飾りに衝突した。
神像や飾りは砕け、引き倒され、国はぐちゃぐちゃにされていく。
殺戮集団の周りを囲いこむようにして集まっていたリ・ワース国軍隊は銃弾や大砲を放った。殺戮集団は銃弾をよけ、また打たれ、少し削れ崩れては元の形に戻ろうとくっついた。銃弾を浴びせても浴びせても再生しようとする殺戮集団に歯が立たないように見えたが、崩れくっつくたびにピースが合わなく、少しずつぐちゃぐちゃに合わさっていくようになっていった。
それでも殺戮集団の勢いは止まらない。怒り狂い心を抑えきれない、といったところだろう。
このまま闘争を続けていたら…どちらかが滅ぶまで終わりそうにない。そうでなくても被害は甚大になるだろう…。
海老の姿をした今日たちは、陸に上がりそして空中に舞い、回旋しながら殺戮集団に雷撃を放った。見てくれが弱々しく滑稽にしか見えない海老たちからの鬱陶しい雷撃。殺戮集団はイライラを隠しきれなく、今度は海老を狙い出した。
海老は闇色の無数の礫の姿の殺戮集団の体当たりを避けながら海の方へ向かった。
殺戮集団は追いかけてくる。
海老たちは東へ東へと海の上を勢いをあげて進んでいく。そして殺戮集団に攻撃されながら追いかけられ東端の『リーヴンイ』まで最速で着いた。
リーヴンイの海岸につく頃、海老たちは相当負傷し体力も尽きかけていた。そうした弱った姿を見逃さず、殺戮集団が礫の身体から電気のような光を貯め、海老たちに放った。
爆発音が起き海岸線は電撃の光に包まれ、そして光が消えると白かった砂浜は焦げて真っ黒になり、焼けた臭気が漂った。周りに海岸線に停められていたであろう舟の破片があちらこちらに破壊されて散らばっていた。
海老たちも焼き焦げて薄っぺらくなり砂浜に張り付いて身体を消失していた。
大爆撃の騒ぎにリーヴンイの人々は恐る恐る少し離れた所から様子を眺めに来た。遠くで野次馬をなすリーヴンイの人々の間から、一人の男性の影が見えた。
背は高くもなく身体も細いのであるがパッと光がさしたような品位があり、ひときわ目立った。彼はリーヴンイの皇帝であろう。遠くから右手を高くあげた。海老たちに弔いながらも生命を吹き込んでいるような不思議なパワーの動きを感じた。
突如リーヴンイの上空から怪しげな航空機が現れ、そこから人形(ロボットにも見える)が降りてきた。海老の亡骸から光が溢れだしロボットと反応した。生命の宿ってないようなぼやけ顔のロボットの瞳が海老と反応した瞬間に色が映えた。そしてロボットは周りを一瞥してから殺戮集団を睨んだ。
ロボットは腰から大きな剣を取り出し人振りした。衝撃波が走った。殺戮集団に直撃した。
『Love chose for Our lives…』
ロボットは囁き、
剣からはさらに青色の光が放たれた。
殺戮集団の礫の身体は光と共に巻き起こった風に巻き込まれ渦となり飛散した。
「今日、よくやった…。」
皇帝は高らかに、そして優しく言った。
ロボットの瞳は、優しい顔をした時の今日と同じ目の色になり、目を細めて少し微笑んだかと思うと目の色がすっと消え瞼は閉ざされた。
ロボットの身体から青白い光がふっとでて、そして空中に柔らかい水玉のようなゼリー状の物体が出てきた。そして、海へと帰っていった。
ロボットの身体はカタンとその場に倒れた。
航空機からは覆面の人が数人現れ、空から降りてきた。足には空中を飛ぶための機械を装着していた。
彼らはリーヴンイ皇帝と、リーヴンイの人々に一礼をするとロボットを抱え、足の飛行機械をオンにして再び飛行機へ戻っていった。
リーヴンイは海岸線だけ、それでも置かれていた漁船やら船着き場は破壊されていたので修理が必要だった。安全を確保しながら、人々は海岸線の修復と片付けに取りかかった。
リ・ワースは殺戮集団が通りすぎた場所はことごとく破壊されていて無惨な姿だった。殺戮集団に自由と権力を見せつけるために飾られた神像や飾りもバラバラに倒れ一部粉々になっていた。
しかし、まるで何事もなかったかのようにリ・ワースの人々は慌ただしく片付けていく。
同じく地域中めちゃくちゃになった西方地方の人々も片付けと修復につとめた。
国はぐちゃぐちゃにされてしまったけど、これまでできなかった祝典は大々的にできたし、東方でも神様信仰と権力を見せつけることができた。
殺戮集団は恐らく全滅はしなかったが、また一つ平和へと突き進めたと確信できた。
( 今回の報復に殺戮集団が力を集う前に、今のうちに西方地域と協定して人型を使い権力を奮う殺戮集団に戦争をしかけ追い込もう。囚われの今日の一部はまだ、西南大陸の非武装地帯に閉じ込められているだろう。今日を助けだし、そして世界をあげての大戦争の準備をしよう。 )
リ・ワースで思いを巡らす小柄なリ・ワース皇帝は、唇から祈りの言葉を囁いた。それはまるで唇の音が空へ浮かび夜空に星を編んでいくような魔法の言葉でだった。
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