第2話 Lord of Heaven と 作られし英雄 ① ー大牙抄録暦 5300年

 宇宙の原始、殺戮の為に蠢く無数の存在が宇宙を支配し、生きとし生ける我らは、身体を生成できず自己という名の最低限の基本的な原子(それさえ上手に象れないものも存在する)の姿のまま拘束され凌辱され、心身、及び、思考の自由を奪われていた。乱立する殺戮集団は、同じ嗜好をもつお互いの事さえ相容れなく、平定させる理はお互いの武力の強靭さだけであり、殺し合いに興じていた。

生きとし生ける我らは、虐げられた身であったが、多く存在し、その数の分だけ性質も能力の在り方も様々であった。我々は殺戮集団の性的嗜好品として弄ばれていたが、時間を懸けそれぞれの能力を上手に使って殺戮集団の抜け目に入り込んで凌辱から隷属へその身分と生き方を変遷させていった。殺戮集団から我々の生きる権利を奪取する為に、殺戮集団の同士討ちを利用して戦争を重ね、同時に我々は心身を進化させていった。

 残酷過ぎる殺戮集団の世界観の矛盾を利用して懐柔し、何もない混沌のマイナス200℃前後の冷酷な世界から惑星や恒星やそれを囲う銀河という世界の構想を殺戮集団に与えた。そして常時命の危険を感じるという殺戮集団の猜疑心に付け込み、永遠に続く殺し合いの世界へ導くという甘言と命の保証という嘘を巧みに使って殺戮集団の同士討ちを進ませた。我々は命という莫大なパワーを投資しながら、徐々に武力を培い、陰ながらの権力を掌握し始めた。そして、ついに永遠に殺戮し合うという世界観を否定する倫理観を表面化して戦争を始め、戦争を終了させるための戦略として、身を亡ぼすことに畏れている殺戮集団に対して“人間”(や生物など)というBODYを構想して取引した。綻び始めた身体の代わりに、我々の身体の一部を使用して作られたこの生物の身体を使って、その身体で以て殺戮し合えば本体は傷付かないという利点を相手に与えた。我々は殺戮し合う世界には不賛成であり参加しない意思を表明し、代わりに身体の一部を使用したBODYを預け、これにより殺戮集団同士殺し合い易くなり、損傷した時、こちらのBODYであったら我々も殺戮集団のためのケアをするので諸々のストレスを解消できるという甘言を使い、我々のそれと引き換えに互いに別々の存在として別離して生きることを要求した。

 

 恒星と惑星などを包括した銀河を構想し生物が製造されてから、およそ1500万年もの歳月を掛けて、殺戮集団と生存を賭けた戦争を重ね勝利と講和を積み重ね、我々の大半もまた人間という身体の使用権を獲得し、生存と平和の為の社会を構築していった。

 

 時は今から150年程前、一人の童子の身体をした男性の生誕1800年の節目を祝う誕生祭が行われた。彼は西方の偉人であったが、盛大な誕生祭が行われるのは今回が初めてだった。我々は宇宙原始から存在するのであるが、我々の中で先手として人間となった方々が出現するのは僅か1万年程前であり、童子の身体のままの彼が、人間の身体を使用できるようになってまだ1800年余りであった。

殺戮集団との戦争の経過は、時間を掛けながらも確実に我々が勝利し我々が生命を営む国際国家社会と秩序を成立させていった。

世界の創始の秘密や理についての記憶を喪失、もしくは生体としてそれを記憶し理解する頭脳を進化させることができなかった我々の同志の奴隷たちは、主に、東端の島国『リーヴンイ』や東方の陸の大国『リ・ワース』、リワースに隣接した東北東に在するリ・ワースの掌握圏内の小国家群『クライア』などに幽閉され拘束され人権掌握闘争を繰り返してきた。

西方地域の先進国際国家に負けず劣らず先進技術を築き東方地方の御顔として発展したリ・ワースと、リ・ワースと国家提携しその国に影響を受けながら西方の移民が行き交い発展していったクライア。

そしてリーヴンイは、開明の智を知らずに幽閉されてきた末端の奴隷たちの大半が住んでいたが、ついに島国建国以来の長期に渡る内乱に講和を結んで平定させ近世国家社会機構を成立させ時代の画期を築き始めていた。

 1800年の誕生祭を迎えた童子の身体をした男性の事を我々は『Lord of Heaven』と呼び敬愛している。1800年前の人間としての誕生の日から始まる、生命活動の自由と博愛精神の在り方を請求する、所謂、宗教戦争は近現代の国際国家成立の足掛けとなった。それから、2000年近く経った。宇宙史の中では僅かにすぎないが長い年月を経た。我々は、殺戮集団に隷属した身分から人権を奪取して近代政治国家を樹立し、一定の平和を得ることが出来た。しかし、殺戮集団は力を弱らせながらも依然として滅亡せず、我々は、常時、殺戮集団を監視し続け平和の為の交渉と譲歩を続けなければならなかった。

一人の偉人という個人のしかも神様と同等の扱いとして祝賀をすることなど未だに到底許されることではなく、国家的な記念日も個人的な特別のお祝いも祝うことを禁じられていた。これでは我々の目指す平和への道のりにはまだ程遠いので、今世紀の東方地域の近世国家が樹立した画期を一つの生存闘争の終了の区切りとして、今回、Lord of Heavenの御名を拝し殺戮集団の目を忍ばす堂々と盛大に西方地域を挙げての祝賀祭を開催した。

 例により、殺戮集団は殺気を抱き暴走を始めた。西方諸国家は自己コントロールの出来てない奴隷はおらず建前ではあるがそれぞれ皆人権を保持していた。予想通りの暴動の発動に祝いの服の下に装備していた武器で西方地域の人々は闘争を開始した。殺戮集団に対して従来通りでは済まないことを顕示するために闘争を予期しながらも華やかに会場と町全体、服装まで飾っていたが、油断なく装備はしていた。犠牲が最小限になるように綿密に計略を立ててあった。だけども、想定内であっても殺戮集団の暴走は激しいもので祝賀を催そうとしていたことも、戦争の勝利の上の講和によって近代国際国家が成立した事実さえも揉み消さんとする勢いであった。西方地域諸国全体に祝賀の飾りつけをし、衣装も会場も盛大に豪華絢爛にして、ここまで大投資して行ったのが反故にされていまう。

 「早まったのかな。」

 誕生祝賀祭の中心にいたLord of Heavenは身を守りつつも会場の玉座から降りずに、降ってくる諸々の剣や爆弾、会場の食器や椅子や飾りつけ、町にあった生活の雑品などを、防具やElectric Barrierなどで交わしながら、そんな台詞を吐いて言った。自由の獲得と技術の進展により、平和的な装備に見立てた格好であっても科学テクノロジーを用いて闘争をすることができた。それに対し、宇宙戦争終結へ向かう道筋として一定の満足を得たとしても、ふとすれば都合悪くなると白・黒・カラーも同じ色だと言い張る感度の低いストレス障害の殺戮集団にとっては、今回の華やかな式典会場をぶち壊しにした解放感を感じさせ太古の戦争の夢を再び彷彿させてしまうかもしれない。殺戮集団に太古の頃の支配力と何一つかわらない同じ能力をもつと自己評価されてしまったら、投資した分の対価が少なくなる。つまり殺戮集団はこれを契機に再び大手を振るって紛争を巻き起こし世界を大混乱させ混沌に返すまで戦争が続くかもしれない。

 この祝賀を祝う理由として他に、西方地域の中心の東側に位置する一国『ハワニィ』の皇族の一人が殺戮集団の元へスパイをして生還したお祝いも兼ねている。スパイとして殺戮集団の生存地域に赴いた彼は、凄惨な拷問を受けた。もう二度と彼を凌辱させず彼を西方地域へ復帰させる目的があった。

 「今日…何処にやらん…。」

 Lord of Heavenは知略のネットワークを巡りこの闘争の有利な平定を思慮した。


 

 今日(きょうと呼ばれた少女)は、非干渉協定地帯の西南大陸の奥まった所に建設されたくすんだ白色の研究所に拘束されていた。研究所といっても名ばかりで、ただの殺戮集団の居住地で今日は牢屋の一部屋に殺戮集団との同士闘争に負けた殺戮者の一人と共に監禁されていた。監禁された当初の今日の暴れようによって相当殺戮者集団と今日はお互いに疲弊し、殺戮集団は無駄に今日に手を出さないように注意しながらも今日を監禁し続けた。今日は毎日のように電気ショックや身体解剖という虐待に合った。今日を包括する地域、『エリア』(西方地域諸国とは違い国際国家として正式に成立していない)は、同士討ちや我々との戦争により疲弊していた殺戮集団に対して、研究所外部から交渉し、秘密裡に内偵を寄越して最低限の今日の看病をした。

 研究所の一室で同室に住まう女の姿をした殺戮集団の一人が倒れている。今日の生命を守ろうとする攻撃をまともに食らっているせいもあるだろう。暴れ者の今日を止めることができない怒りを抑えきれなく、研究所で主たる生計をたてる殺戮集団は同士であった女を殴り馬乗りになり女のすべてを食いつかんと強姦した。今日は、とばっちりを食らわないように換気口の隙間に入り込んで身を隠した。その日は、殺戮集団は今日と向かい合うのを嫌がり隠れた今日を無視していた。そこに住む殺戮者集団は、昼過ぎの15時に起きだし、今日に手を出すか、一緒にいる女に暴行を働くかどちらかであり、その後すぐに疲れて今日のいる部屋からいなくなり、かつての同士の死骸を保存してある倉庫へ行きそこで虐待に興じる、そんな毎日だった。

 身を窶し換気口で倒れて寝込んだ今日は、身長100cmくらいの人間の幼児の身体をしていたが、その身体以外に他の身体を併せ持ち、宇宙を構成する歯車の一つとして生きていた。

 『身を亡ばせば… 如何せん』

声が深海より聞こえた。

今日のもう一つの身体は今回は東方地域の深海の中で小さな海老となり海を清浄化するのを手伝っていた。脳みその化け物のような殺戮集団の本体は様々な形に変異する。海の中を掌握されない様に無心で海老となり、その他、海洋担当の生物・植物・無生物等と共に海を守っていた。今日の生態は亜種というどの生態系にも当てはまらない存在で今日の一族はエリアと呼ばれる地域の人々の支配下で職能的な軍隊として活動していた。

声の主は今日の知っている人だ。声と共に、今日の脳・心身に母なるエリアのコントロールが及び、急速に身体が覚醒する。コントロールされるがままに海を上り西方地域の海岸まで押し上った。辿り着いた所は西方地域の中心の西側の国家、誕生祭の式場である『ララ』だった。

海老の姿をした今日は陸へ跳ね上がり、原始的なエアー気道操作術を操り空中へ浮遊した。そして大混乱中の西方地域を空から眺め、陸にいた殺戮集団に向かって雷鳴攻撃を発動した。

 「!何だ?!今日?!か?!(どうか無作為に攻撃するのはやめてくれ)」

 西方地域の人々は騒めいた。

 「…Non "said" Lullaby….」

 一匹の海老の双眼と髭から雷鳴が起き電光が走った。殺戮集団に目がけて何度も電光を発し、一人一人身体の自由が利かなくなって倒れ、弱り切っていた殺戮集団のいくつかは、ほぼ絶命した。流れ零れる雷鳴は西方地域の人々の頬や肩を通り過ぎたが、不思議と微弱な電気に感じ傷跡回復の助けになった。

 「もしかして我々の宇宙に所属する存在というのは、

  その物質自体が殺戮集団にとっては槍玉でありながらも、

  我々には害をなさいという合理を得たのか?」

 海老の傍について他の海老が何匹も浮上して同じような雷鳴攻撃し、殺戮集団からの攻撃を器用にかわして自らと西方地方の人々を守り援護をした。

海老の群れ達の攻撃の最中、西方地域の人々は後片付けと今後の展望について再度練り直すことにした。海老の攻撃と西方地域での失態を見せしめにされた殺戮者集団は逃亡を開始した。偽物の人型の身体からウィルスほどの小さな本体が逃げ出し全速力で東へと向かい始めた。いとおかしく醜き海老によって闘争に負けた屈辱を晴らすべく東方地域、最終地点として恐らく東端の小国リーヴンイへと向かうのであろう。



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