第10話 初回の攻撃
この地区は白鳥、黒鳥、鳳凰、烏山(からすやま)の4つの学校で大会を行っている。
トーナメント制であり、1回負ければ即敗退。徹にとっては初めての大会となる。
開会式は無く、白鳥ナインがグラウンドに入ると鳳凰ナインが既に練習をしていた。
特に目立った様子は無く、相手ベンチの前先発予定の投手が肩を作っていた。
見る限りボールは速くない。
「僕の分析では相手チームの投手、渡辺(わたなべ)は右のサイドスロー球速は100キロ程度。変化球はカーブといったところだね」
統がメモ用紙を出して、白鳥ナインに伝える。しばらくすると、鳳凰の打撃練習が始まった。打撃の練習では外野の頭を越すような打球は見られず、当てに行くバッティングが多く見られる。
「チームとして繋ぐ事を意識しているみたい。なるべく相手に球数を投げさせすぐに凡退しないようにしているらしい…桐ヶ谷に繋げば勝てるからってのもあるだろうね」
統が説明している途中、鳳凰ナインは外野に下がる。選手によってはフェンスを越えた位置に立っていた。
打席に大本命の桐ヶ谷が立つ。体格は他の選手より一回り大きく、スイングも明らかに違う。
カキィイイイン!!大きな打球音がすると打球はフェンスを越える。打球の殆どがフェンスオーバーかフェンス直撃の当たり。試合前から白鳥ナインは桐ヶ谷のパワーに呆然としていた。
そんな中で白鳥の練習は淡々としていた。特に派手な所を見せる事無く試合前の練習は終了。
いよいよ試合開始を迎えた。
先攻は鳳凰、後攻は白鳥となる。
先発は勉、対するバッターはいきなり桐ヶ谷だ。
勉は統とサインを出し合う。初球は低めのストレート。勉の第1球が放たれた。
バギィイイン!大きな打球音を残し、打球はフェンスを越す。しかし、打球は運良くファールになった。
「ありゃー!狂っちゃったかー!初球ホームランとかいきなりヒーローとか思ったのになぁ」
桐ヶ谷は軽いノリで悔しがる。しかし、打席に入ると再び勝負師の顔になる。
勉と統は次のボールを選択する。あまりにもタイミングが合ってるため、ここはカーブを選択した。
ところが、次のボールも桐ヶ谷は思い切り振り抜きファールにする。この時点で勉の持ち球は全て当てられた。
「次も低めかな〜?中々高めで勝負されないから低め狙っておけば簡単にホームラン打てるんだよね〜」
桐ヶ谷は統に笑いながら言う。勉は統にこれまでとは違うサインを出す。そのサインに統は頷いた。
勉からボールが放たれる。厳しい低め、インコースギリギリへの全力ストレートだ。
桐ヶ谷にとっては予想外の球だっただろう。若干バットを出すのが遅れた。ところが、桐ヶ谷は全力へ逆方向にバットを全力で振り抜いた。
打球はライトの徹を襲う。
これまでに経験した事の無い速さの打球。弾道は高くないが、これが抜ければ打球はフェンスを越える。
徹は跳び、打球に向かって手を伸ばす。徹のグラブはギリギリ打球に触れた。フェンスオーバーは避けられたがボールは地面に落ちてしまう。
徹はすぐに拾ったボールを2塁に投げた。桐ヶ谷は既に余裕を持って二塁へ到達している。
初回のたった1人であるが、濃厚な攻防であった。
その後の打者は勉が苦しみながらもなんとか打ち取り、1点も取られずに1回を終える。しかし、四球を2出しており、相手の打順を6番まで回してしまった。もし、次の回でランナーを出せば桐ヶ谷にまた回ることになる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます