第8話 大鎌監督の戦い

黒鳥と練習試合をした次の日。


朝からグラウンドでは徹がバッティグ練習をしている。トスバッティグであるが、ボールは前に飛んでいる。飛距離は別として。


氷河神は1時間近くトスをして疲れた顔をしていた。


「やっぱ、あくまでも前に飛ばしたいのね」


そう言う氷河神に「俺は綺麗な線になるヒットが打ちたい」と徹はバットを構える。


「だったら俺と勝負しようぜ篠木。俺のサイドと篠木のバットでさ」


しかし、審判も居ない守備も居ないグラウンドでは…と思っていると、捕手の統がグラウンドに入って来た。


「勝負するなら受けるよ。僕が氷河神の愛人になってあげる」


気持ち悪いと思いつつ、氷河神は統に捕手をお願いした。


「いくぜ篠木ィ!」


氷河神が第1球を放った。徹は打とうとしたが、ボールは徹の予想した以上の軌道でストライクゾーンに入った。


「今のがストレート?凄いな」


徹は見た事の無い軌道に驚いていた。佐々木先生の言う通り、これは中々打てない。


徹は右打ち、氷河神は右投げ。氷河神のサイドから放たれるボールは徹から大きく逃げていく、それが変化するカーブなら余計に。


「ストライク…僕が判定しなくても振ってるから良いよね?」


統の言う事は、徹には聞こえなかった。1度もバットにボールが当たらずに追い込まれるのは徹にとって初めての事だった。


狙い球を絞るべきか、それともヒットを捨てるか。中途半端な打撃で氷河神を攻略出来るのか。その迷いがある中で氷河神の手からボールが放たれる。


球種は再びカーブ。回転を見るにボールはストライクゾーンを通り落ちていく。見送ればストライクになる。


徹は両手でバットを出すも届かない。その時、徹は左手だけで必死にボールへ喰らい付いた。


ボールは空に上がる。そのボールを氷河神がグラブでキャッチした。


打球は前に飛んだ。


だが、投手を越えない。


ヒットを打てなかった事もあるが、氷河神のボールに手も足も出なかった。

勉も間抜も凄い投手だが、氷河神は本当に苦手と感じる。


こんなにも勝負に勝てない主人公は居るのだろうか。汗を拭きながらそんな事を考えていた。


その様子を教室で佐々木先生は眺めていた。隣には大鎌監督も居る。


「あの控えの子達にそこまでの実力があるなんてね!予想gayよ!」


大鎌監督に佐々木先生は「彼らは素晴らしい選手ですよ」と眼鏡を光らせて言う。


「アナタ、野球部の監督にならないの!?アタシより野球詳しいじゃない」


佐々木先生は「私は家庭科の教師ですから」と言い、大鎌監督にスコアブックを手渡した。


「飛ばせるかな、白鳥を」


意味深な事を言い残し佐々木先生は教室を去って行った。


「生意気なボーイね!!アタシだって意地があるのよ!!」


大鎌監督は燃えていた。訳の分からない家庭科教師に口を出され腹が立っている様子だった。


「ボーイ達は私が白鳥の湖に飛ばスワンよ!!」


監督大鎌の戦いも始まろうとしていた。

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