第6話 初めての勝負

1番ライト…それは徹にとって初めての試合。ようやく来たチャンス。


相手は黒鳥のエース間抜(まぬき)。いきなりの強敵。


だが、この投手はベンチから何度も徹は見ていた。


プレイボールの声が掛かる。


間抜が振りかぶってボールを投げる。130キロのストレート。徹はいきなりバットを出してボールに当ててみせた。


しかし、ボールは前に飛んでいない。


第2球を間抜は投げる。大きく変化するカーブ。徹はパターンを読んでいた。これも釣られずにバットに当てる。


再びファウル。


2ストライクと追い込まれた。


間抜は遊ぶつもりも無い、渾身のストレートを厳しいコースに投げ込む。徹はそれを辛うじてバットに当てた。


ファウルになる。


指揮を取る佐々木先生はニヤリとしている。こうなる事をまるで分かっていたかのように。


徹は10球ファウルした後で三振に倒れた。三振した徹を佐々木先生は拍手で迎えた。


「良い調子ですよ篠木君。君の打席は次に繋がります」


佐々木先生がそう言うも後の打者は連続三振。次の打者には繋がらず、白鳥打線は間抜の前に9者連続三振してしまう。


そして、再び4回表で徹の打席が回る。


打ってやる!徹は強い意志を持って打席に入るも打球は尽くファウルになる。前に球が飛ばず12球を費やしフルカウント。


間抜が投じたボールはストライクゾーンを大きく外れた。


フォアボール。


この試合で初めて白鳥にランナーが出た。


佐々木先生は塁上の徹を見るとウインクをする。


次の打者である統(とう)のカウントは1ストライク、2ボール。


次のボールを間抜が投じた時、徹は動いた。徹は間抜の隙を突き盗塁を仕掛ける。ボールは二塁に投げられるも間に合わない。徹は盗塁を決めたのだ。


「ランニングとダッシュが生きましたね篠木君」


佐々木は統にバントをさせて、徹を三塁まで進めた。


次の3番は社(やしろ)。ここはチャンスであったが社は三振。


4番の勉に託す事になった。


勉は燃えていた。チャンスを作って自分の打席に回って来た事。


「篠木が…みんなが作ったチャンスだ

!!僕は打つ!!」


強い気持ちで入った打席。気持ちが勉のバットに乗り移った。


カキィン!打球は間抜の横を抜けセンター前へのヒットになった。ランナーの徹は三塁から余裕を持ってホームインした。


白鳥打線が黒鳥から1点を先制。


この後は間抜も立ち直り、後続を三振に打ち取るも、この1点は投げていた勉に大きな勢いをつける。


点を貰った勉も間抜に負けず三者連続三振で流れを渡さなかった。


しかし、間抜も意地を見せ、負けじと三振の山を築く。


そして、間抜と徹の3打席目の勝負が始まろうとしていた。


1アウトランナー無し、当然徹はヒットを狙う。当たっているのだから少しズレればヒットになる。徹はそう思っていた。


間抜は疲れた表情で徹を睨む。


振りかぶってボールが放たれた。だが、ストライクゾーンから大きくボールが外れる。


次の球もボールになる。これまでとは違い見極めやすい。恐らく間抜は疲れている。徹はそう読んだ。


間抜はボールを投げる中で考えていた。自分の体力はそろそろ尽きると。全ては目の前に居る男が原因。間抜はそう分析していた。とはいえ、篠木にヒットは打たれていない、2打席目は歩かせたが、1打席目も三振に打ち取っている。


ここで無理をすれば、篠木以降の打者に対しては投げられない。間抜は篠木を余力を残して歩かせるつもり…だった。


次に間抜が投じたストレート。徹は予測してなかった為空振りした。


驚くのはストレートの速さ。初回と同じぐらいの勢いを徹は感じていた。


徹も初心者ながら感じていた。間抜の闘争心を。全力で自分に対してボールを放った事を。


徹はよく分かっていなかった、よく分かっていなかったが、その闘争心に応えなければならないと打席の中で感じていた。


間抜の放ったストレートに徹のバットは空を切る。


「トドメだ」


間抜はこの試合で渾身の力を込めた最高のストレートを放った。徹もそのストレートに対して自分の出来る最高のスイングで応えた。


カキィン!という音が響くと間抜のグラブにボールが収まった。


投手へのライナー。徹の打球は初めて前に飛んだが、その打球は運悪く間抜のグラブに吸い込まれてしまった。


徹を打ち取ったところで間抜はマウンドを降りた。その表情は何処か晴れやかな顔をしている。


一方の徹も間抜のストレートを前に飛ばせた事に手応えを感じていた。本当に最高の直球だった。


痺れる手を抑え徹はベンチへ戻って行った。

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