第3話 ループとサルコウの見分け方

 暗闇の中、光に吸い寄せられる虫みたいに、私はハルくんの投稿を遡る。


 ……あった。

 2019年8月19日。

 ドキドキしながら、動画を再生する。

 ずっと前の動画なのに。もう何度も見ているのに。

 どうしてこんなに胸が高鳴るんだろう。


 高田馬場シチズンリンク。

 左から右へ滑ってくるハルくんを、カメラが追う。

 ハルくんのスケーティングは速い。

 ぐいぐいとバッククロスで漕いで、勢いを付けていく。

 けど私の一番好きなのは、速さよりも、その余裕だ。

 ジャンプのプレパレーション。

 ハルくんはまるで踏み切りの先に何かが見えているみたいに、一点を見つめ、手招きのような仕草をする。

 自分が行くのではなく、向こう側を引き寄せる。

 おいでよ。

 テイクオフもランディングも、とっくに準備ができてるんだから。

 わずかにフッと微笑み、ターンで後ろを向く。

 腰をぐっと落として、そのまま右足で踏み切る。

 トリプルループ。


 ハルくんのループが好き。

 牙を剥くぎりぎりのスピードを手懐ける、スリリングなループ。

 チェックの後の、降りて当然と言いたげな顔も、不敵でいい。

 まるで、氷の上で生きる動物みたい。


「これが本番でも決まればな~」

 添えられている本文はたったこれだけ。


 もう何度見たか分からない。

 ハルくんのおかげで、私はループとサルコウを見分けられるようになった。



 

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