1-11
久しぶり、元気だった?
また背が伸びたんだね。
高校でも野球続けているんでしょ?
練習はどう?
夏の総体には出るの?
友達できた?
思いつく言葉はいくつもあるのに。
悠人を前にした私は息をするのが精いっぱいで。
「久しぶり」
最初に口火を切ったのは悠人だった。
中学生の頃よりも低くなった声。
夏服のシャツから覗く真っ黒に日焼けした腕は筋肉でよりごつごつと逞しくなっていた。
「久しぶり…」
ちゃんと私の顔は嬉しそうな顔をしていただろうか。
どうして会うはずのないこの時間に悠人と会ってしまったのだろう。
今日は野球部の部活がたまたまなかったのだろうか。
首筋を伝う汗が夏の暑さのせいのものなのか、それとも違う何かなのか区別がつかない。
どうしよう。
何を話せばいいか分からない、
話題が出てこない。
「…」
「…」
お互いに言葉を探している。
「…あのさ、沙織」
いつから悠人は私を呼び捨てで呼ぶようになったんだっけ。
慣れない呼び捨てがむず痒くて、「沙織ちゃん」と呼ばれていたあの頃よりも遠く感じる。
悠人が何か言いかけてすぐに、家の扉が開いた。
「あら…お取り込み中?」
夜勤に向かうところの母が扉から出てきた。
私の姿を捉えただけでなく、普段見ることのない男子とのツーショットにちょっと浮き足立っている気がする。サイアクだ。
「って、あら?ハルくんじゃなーい!久しぶりねぇ。」
私の向かいに立つ男子の顔が、よく見たことのある顔だと気がついて母は感嘆の声を上げた。
「お、おばさん、お久しぶりです」
「元気にしてた?大きくなったねぇ」
悠人の元へ駆け寄る母は私が入れないでいた悠人の間合いにズケズケと踏み込んでは自分の目線と悠人の目線を比べて背比べなんてしている。
「はい、元気にやってます。今176㎝になりました」
「あらそうぉ。ご飯はもう食べた?」
嫌な予感がする。
「いえ、まだ今帰ってきたところで」
「あら、じゃあうちで食べていったらいいわよ。ちょうどいいわ。カレーを作ったの」
「え、ちょっとお母さん。悠人だって明日の朝早いかもしれないし」
「ご飯くらい食べる時間はあるわよ。久しぶりに会えたんだしいいでしょう?さ、入って入って!」
「え、でも、あの…」
あれよあれよという間に悠人は母に手を引かれて玄関の奥へ連れていかれてしまった。遠慮がちな背中も観念したように、母に見を委ねている。
「サイぃアクだ…」
小さい頃からよくお互いの家でご飯を食べに行き来していたことは多いし、中学に進学してからというものそれぞれ部活の都合もあり、幼い頃のようにご飯を食べにいくことなんてなくなってしまった。
高校に入って違う学校に通うようになってあらはほとんど顔を合わせることもなくなってしまったため、約2年ぶりに悠人の顔を見れたことがとても嬉しいのだろう。分かる。分かるが母よ…。
「何しているの?早くあんたも入りなさいよ」
玄関からひょっこり顔を出した母。
そう催促されてしぶしぶ家の中に入った。
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