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その後、警察が駅にやってきて、男の身柄は引きとられた。
私や大和を含めた、取り押さえに協力してくれた二人のサラリーマンにも駅員室で簡単な事情聴取がなされた。
捕まった男は、警察署で事情聴取をすることになっているらしい。けれど、直接何かされたわけではないから立件は難しいという話も事情を聴いてくれた女性警官から聞いた。
同性として申し訳なさそうな表情の女性警官に何も言えなかった。
「なにもされていない」なら、お尻でもなんでも触らせてから助けられたほうが良かったというのだろうか。
考えただけでもゾッとする。
学校に通うには電車は必須だし、明日からどうしたらいいのだろう。
一通り事情聴取が終わると、親に連絡をして迎えにきてもらうか尋ねられたが断った。
父は単身赴任で今は一緒に住んでおらず、看護師の母は夜勤続きで今の時間はまだ寝ている。あとは3歳年下の弟がいるけれど、サッカー部に所属している弟もこの時間はまだ部活の真っ最中だろう。何より年下の弟にこんなことを知られるのは、姉としての威厳を保つためなのか、なんなのか、とにかく知られたくないと思った。
「一人で大丈夫です。一日に二度も被害に遭うこともないだろうし」
心配する女性警官を説得し、駅員室の扉を開けて外に出た。
気がつくと、日がとっぷりと落ちていてホームの照明ライトの周りを夏の虫が舞っていた。
「本当に一人で大丈夫?」
なんならパトカーで送っていくよとも言われたけれど、近所の人にパトカーから降りてくるところなんて見られたら変な噂が立ってしまうからと丁重に断った。
「お気遣いいただいてありがとうございます」
本当のことを言うと、これからまた電車に乗って帰るのはとても不安だ。
さっきは一日に二回も被害に遭うこともないだなんて言ったけれど、今までが運良くなかっただけで、絶対大丈夫なんて保障はどこにもないことに改めて気がついて怖くなる。
「あの、良かったら俺が送っていきますよ」
聞き覚えのある声がした。
駅員室の隣にある自動販売機の前のベンチで、先に事情聴取を終えたはずの大和がそこにいた。
「同じ学校だから知らないわけでもないし、下りる駅も一緒だし」
下りる駅も一緒。
気づいてくれていたことに少し感動する。
「そうなの?」
「あ、はい」
女性警官に問われて、私も思わず返事をしてしまった。
「送ってもらえるならそうしてもらった方が良いよ。その方が私たちとしても安心だし。それに日も暮れてきているから、女の子が一人で夜道を歩くのは何かと心配だしね」
そこまで言われてしまっては、私も引くに引けなくなり、渋々お願いすることにした。
警察官の二人に挨拶をして、次に来た電車に大和と二人で乗り込んだ。
「青春っすね〜」
「青春だねぇ」
肩を並べて電車に乗り込んだ二人の高校生の後ろ姿を、扉が閉まるまで警官二人が微笑ましそうに見守っていた。
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