2. Hand in Glove

2-1

 フラワーホールに挿し込んだ

 紫色の花束と

 僕らの孤独に割り込んだ

 あの子の匂いの花の色


 九五年から変わらない感情は

 花瓶に薔薇を挿すようで

 二〇〇〇年にも変わらない服装は

 胸元に百合を挿すようで


 着飾った薔薇が僕の心を刺すけれど

 嗤って嗤って、恥ずかしそうに

 着飾った薔薇が僕の胸を打つけれど

 笑って笑って、ほしいだけだよ



 Flower Hole / June Amamiya


     *


 芹澤千春と出会ってから、わたしの作曲活動は不思議と進んでいった。

 わたしたちはいつも放課後になると図書館に集まって、ふたりで歌詞のノートと本を開きながら、ああでもないこうでもないと語り合った。ときおりわたしの作ったデモテープも聴きながら、基本的に作曲は鼻歌と、それからスマホに入ったガレージバンドのアプリとかでやってみた。わたしが軽く鍵盤を弾いてメロディをつけると、それにあわせて二人で歌を考えていった。

 芹澤君がいると、なぜだか作曲の作業が進んだ。

 思うに、彼のすごいところは、的確に口出しをしてくれるところなんだと思う。わたしが曲を作ると、彼はあることないこと言ってほめてくれるし、それにわたしの曖昧模糊としたイメージを的確に形にしてくれる。それが彼の一番のすごいところだと思った。

 たとえばばわたしが「これは少年の歌にしたいの。モリッシーじゃないけれど、思春期の少年が胸を痛めるような、そういう歌。言うなれば、そう棘が胸に突き刺さるような感覚」って、ものすごく曖昧なイメージを語ったわけ。そうすると、彼は歌詞の草案ノートをパラパラとめくって、

「いいんじゃない。この『薔薇が僕の胸を打つ』ってフレーズとか。こう、胸元に挿した薔薇の刺が心臓に刺さるみたいな、そういう情景が思い浮かぶよ」

 そう答えてくれた。

 それからわたしはすぐにそのイメージを書き込んで、翌週には何となくのメロディがついて、曲ができていた。

 こうしていつのまにかわたしのオリジナル曲は二曲ぐらいできて、この調子だとミニアルバムならすぐにできそうな勢いだった。

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