#5.紅叶は引っかかる
「
紅は両親に呼ばれて、突然そのようなことを言われた。
「ふぇ? ら、ラッキースケベ?」
「そうよ。代々この家系はラブコメが起こる家系なの」
「へぇぇ……どうゆうことぉ……⁉︎」
「私はラッキースケベの持ち主、ママは暴力系ヒロインの血筋なんだよ」
「もう、あの頃は大変だったわ」
両親は高校時代の話に花を咲かせる。
「え、えっと、つまりどういうこと……?」
「お前ももうすぐ高校生だろ。つまり高校で運命の相手に出会うということだ」
「運命の……⁉︎」
「そうよ。でも、叶はとても優しい子だから暴力系ヒロインじゃなくてラッキースケベの持ち主なんだと思う。もし、ラッキースケベを誰かに繰り出すようなことがあれば、その人が──」
◇ ◇ ◇
大縄跳びの練習。それは昼休みや放課後を利用し、来たる野外活動で優勝するための猛特訓する。
「さぁー! 頑張って練習しようー!」
ジャージ姿の長内はそうみんなを鼓舞した。こういうのは中々練習しないものだが、クラスで人気者となりつつあった副担任が先陣切って声を掛ければみんな呼びかけ合って行くようになった。
だが、担任である灰帰は見守ることもしない。
「もー、灰帰先生はまたサボるんですからー」
長内はまたブーブー文句を言っていた。
他にも参加しないメンバーはいたが、大抵は部活とかだった。
虹ヶ浜は同じグループになった神黄に声をかけるも、
「あたしやらない。縄跳び本気にするとかマジだせぇし」
と言って放課後すぐに帰ってしまった。
クラスメイトは少し嫌味を言っていたが、練習が始まるとそんなことは忘れていた。
虹ヶ浜も深追いはせず、練習するが全員では一度も跳べなかった。
「す、すみません……!」
紅が全て引っかかっていたのだ。
「うぅ、私のせいで、すみません……」
「大丈夫ですよ紅さん。練習すればきっと跳べます。そのための練習ですから」
「は、はい、頑張ります……」
しかし、何度練習しても一向に跳べなかった。
次第に不穏な空気が流れ、誰かが溜息をつく。副担任が絶えず励ますが、むしろそれが紅を追い詰めている気分になった。
「一回、紅抜けた方がいいんじゃね?」
一人の男子生徒がそう言った。
「……すみません、皆さんの足を引っ張ってしまって……。い、一度抜けてみますね……! す、すみません……」
紅はとぼとぼと輪から抜け、その場を離れた。
肩を落とす姿を見た女子陣はその男子生徒を責めるが、「別に事実だろ」と反論しギスギスしだす。
「ちょ、ちょっとみんな! ケンカはダメですよー!」
「……長内先生、私も抜けます。紅さんが心配ですので」
見かねた虹ヶ浜は紅を追いかけるために離れることにした。
「う、うん。あ、そうだ。確か普通の縄跳びがあったはずなので、それ使って練習してみてはどうですか? まずは一人で跳べるようになったらきっと跳べるようになりますよ」
「ありがとうございます。持ってきて頂いてもいいですか?」
「オッケー。ちょっと待っててねー」
虹ヶ浜は長内から縄跳びを受け取り、見える範囲にいた紅のもとへと向かった。
「に、虹ヶ浜さん、すみません……こんな私なんかのために……」
「気にしないでください。一緒に私と練習しましょう」
虹ヶ浜は紅に縄跳びを渡し、まずは一人で跳んでもらう。最初は順調に跳べていたのだが、徐々にタイミングがズレて引っかかってしまった。すると不思議なことに縄跳びが紅の身体を絡みつくように縛り上げ、彼女は動けなくなってしまった。
「た、助けてくださぁぃ……!」
「何でそうなるの⁉︎」
虹ヶ浜は紅を助けてあげる。「んん……!」と喘ぎ声をあげるので、虹ヶ浜も解いてて恥ずかしくなってしまう。
無事に解放された紅は虹ヶ浜に悩みを打ち明ける。
「私、実は運動音痴なんです……」
「ええ、見れば分かります」
「がーん……!」
「何をショック受けているんですか。自分で言ったことでしょう。ただ、しっかりと跳べてはいるので、運動音痴が理由ではないと思います。少し考えがあります──」
**
そして、本番がやって来た!
バスに揺られて野外活動場所である、とある自然公園に訪れた。木々と池と虫がいっぱいのこのエリア。その中の運動場のような少し開けた場所で生徒達は集合していた。
「優勝クラスにはなんと〜、今回のバーベキュー用で特別に! A5ランクの神戸牛が貰えるよー! みんな頑張って跳んでねー!」
司会である長内の言葉に、生徒は皆、この後に控えるバーベキューの肉をグレードアップさせるために本気になった。目が血走っている生徒もいるくらいだ。
跳ぶクラスは前半と後半に分けられて跳ぶことに。虹ヶ浜たち7組は後半だ。
──そうだ、透くんは1組だから跳ぶはず!
「「「せーの、いーち」」」
ビシッ
──え⁉︎ もう終わり⁉︎
1組の記録は0回。だが、それはそれでクラス内は笑い合って盛り上がっていたそうだ。
前半での最高記録は4組の52回。7組は最低でもこの回数以上他のクラスよりも多く跳ばなければならない。
「みんなー! 頑張れー!」
長内の応援にクラスメイトは盛り上がる。
「ほら、灰帰先生も応援してくださいよ!」
「え。あぁ、ほどほどにな」
「もう! こういうのは優勝目指さないとダメなんですぅ!」
また、長内の一方通行として揉めていた。
「──だ、大丈夫かな……。52回なんて、全体練習でも私は10回跳べなかったのに……」
「紅さん大丈夫ですよ。私がついていますから頑張りましょう。さあ」
「……はい」
差し出された虹ヶ浜の両手をとり、二人は縄の真ん中で向かい合わせになった。
「「「せーの、いち、に、さん……」」」
虹ヶ浜の考えた作戦だった。7組のクラスメイトは体力が尽きるまでみんな跳べている。より高く跳ばないといけない端っこは男子運動部に任せ、真ん中は紅と虹ヶ浜を中心に女子で配置した。
紅は虹ヶ浜と手を取り合って一緒に跳ぶことでリズムが狂わないようにしているのだ。
「決して回す人を見ずに私だけを見ていてください。縄の真ん中は地面を擦るので高く跳ばなくていいですが、タイミングがその分ズレてしまいます。だから、私にだけ集中して跳んでください。大丈夫、紅さんはしっかりと跳べていますよ」
「「「ごじゅうさーん! ごじゅうよーん! ごじゅうご──」」」
最高記録であった4組の52回は超えた。だが、まだ隣の6組が同じく跳んでいる。ここからは持久戦であった。
(うぅ、足が、も、もう動かない……。も、もうダメ……!)
諦めかけたその時、紅の手は虹ヶ浜によって強く握られた。
「下を、向いちゃ、ダメですよ……、私だけを、見ていてください……!」
「に、虹ヶ浜さん……」
紅はその時気付いた。虹ヶ浜はただ手を繋いで跳んでいるだけではない。同じタイミングで跳んではどうしても紅は遅れてしまう。だから跳ぶ少し前に手を上に引っ張ることで、紅が跳べるよう自然と促していたのだ。
(こんなにも虹ヶ浜さんは私なんかのために気を遣わせてしまって……ここで私なんかが諦めてはダメだ……!)
「に、虹ヶ浜さん! 私、頑張りま──きゃっ!」
宣言しようとした瞬間、バランスを崩してしまった紅は虹ヶ浜の後ろにいる女子も巻き込みつつ、そのまま押し倒してしまった。
縄はもちろん止まってしまう。二人以外は倒れてなく、みんな怪我はなさそうだったが、虹ヶ浜は腰辺りを紅の胸で押し潰され倒れていた。
「に、虹ヶ浜さん! 大丈夫ですか⁉︎」
「へ、平気です。紅さんの方こそ大丈夫ですか?」
「わ、私は大丈夫です。でも、その、私のせいで負けてしまいました……」
記録は77回。6組は今も跳び続けて80回を超えていた。優勝は出来なかったのだ。
「みなさん……ごめんなさい……。私のせいで、その、優勝出来なくて……」
紅は目に涙を浮かべていた。自分のせいで記録が止まり、クラスメイトをガッカリさせ、虹ヶ浜にも申し訳が立たないからだ。
だが、みんなの反応は違っていた。
「凄いよ紅さん! こんなにも跳べるようになったなんて!」
「こんな記録、練習でも跳べたことないよ!」
「……あの時はごめん。抜けた方がいいなんて言って……ほんと紅さん凄いよ!」
みんなは喜び、あの時口を滑らせた男子生徒は紅に謝っていた。
「え……? えっと……そんな、私のせいで……」
「紅さん。誰かのせいで記録が止まったわけじゃない。みんなが頑張ったから77回もの最高記録が出せたのよ。これは紅さんもいたから出せた記録です。だから涙を拭いて、ね?」
虹ヶ浜は紅が流していた涙を拭いた。
そんな彼女がカッコよく見えた。それに出会ってからラッキースケベが虹ヶ浜に対してだけずっと起こっている。入学する前に両親から言われていたラッキースケベの血筋。つまりこれは──
「────虹ヶ浜さんは、運命の人……」
「え? ──ちょ!」
「わぁぁぁん……! に、虹ヶ浜さん! ありがとうございましたぁ!」
紅は虹ヶ浜に抱きつき、結局泣いてしまった。7組の絆が深まり、そして紅の運命の相手が見つかった大縄跳び大会であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます