#4.虹ヶ浜彩はグループを作る


「はーい! じゃあ今日のHRホームルームは来週に迫った野外活動のグループを作ってもらいます!」


 野外活動──国立紀附きづけ高校における一番最初のイベントである。

 兵庫県内にある自然公園に赴き、バーベキューや謎のクラス対抗大縄跳び大会を行う日帰りイベントである。目的はクラス内の絆を深めるとしているが、実際のところ、もう人間関係はグループ決めの段階では決まっているのだ。


 ──どうしよう……透くんにどう振り向いてくれるか考えてばっかだったから、友達全然いない!


 虹ヶ浜はピンチであった。

 彼女は自身が人気者であると理解はしている。嫉妬されることはあるかもしれないが、どんな相手でも良い顔しているため嫌われていることはないと。むしろ尊敬、敬われる立場であることは重々承知していた。

 しかし、友達とは対等な間柄であること。そのような相手は今の虹ヶ浜には存在しない。クラス内の人間はみんながみんな「虹ヶ浜さんとグループを作るのは恐れ多い……」として遠慮しているのだ。

 そのために生じてしまった圧倒的孤立……! 虹ヶ浜は一人浮いていた。


「このクラスは男女がちょうど15人ずつなので、それぞれ三人一組で作って、男女は後でくじ引きでくっつけましょうか! そっちの方がみんなグループ作りやすいですよね!」


 副担任の長内おさないがそう言ったことにより、男子は「虹ヶ浜さんと同じグループになる確率は男全員平等に20%……!」ということで、今後のことを考えて誘う人間は消える。女子も既に仲良くなっていた友達とグループを作っていく。


 ──どうしよう……! グループが次々と作られている。誰も誘ってくれない……。先に恋人じゃなくて友達作るべきだったなぁぁ。って恋人も出来てないんだけど。自分からグループに「入れてください」と言うのも、クラスの人から「あれ、虹ヶ浜さんって友達いないんだ。なんかガッカリ」って思われたら私の名が廃ってしまう……!


 虹ヶ浜彩は今の日本経済を引っ張っていく新進気鋭の会社の一人娘。無色の前を除いては、プライドは捨てられなかった。

 しかしこのままでは先生によって自動的に組まされる事態に陥ってしまう。それだけは避けたいと虹ヶ浜はクラス内を見回すと、自分と同じくまだグループに入れていない子が二人いた。


 ──ここは、私から声をかけることで「優しい虹ヶ浜さん」ということでクラスのみんなに通せる気がする。よし……!


 虹ヶ浜は自分と同じく一番後ろの席で窓側にいる生徒に声をかけた。


神黄かみぎさん。よければ私とグループを作りませんか?」


 虹ヶ浜は全ての生徒の名前を覚えている。学年の生徒であれば、入学式の新入生発表で名前と席の座標、代表挨拶で壇上に立った時に見た顔と統合させることで記憶した。


「ん? まぁ、いいけど」


 無愛想に神黄は答えた。

 神黄つくし。見た目は完全にギャルである。服を着崩して谷間が見えてしまっている。先生からは見られないようにスマホをいじり、もう片方の手で髪をいじっていた。スクールカーストでは高い位置にいそうだが、この学校が進学校のためかギャルは他におらず、彼女もまた浮いている存在であった。

 そして、この学校では珍しく虹ヶ浜に話しかけられても「に、虹ヶ浜さんに話しかけられちゃった……!」「お、おで、虹ヶ浜さんが話しかけでぐれるなんて、し、信じられねぇだぁ!」のように狼狽うろたえない人であった。


 ──うーん、大抵の人は嬉しそうに反応するんだけどなぁ……まぁいいでしょう


あかいさんも一緒にどうですか?」

「ひゃぁ⁉︎」


 紅と呼ばれた窓側の列で一番前に座っている女子生徒は驚いて返事した。


「わ、私ですか……?」

「紅さんは他にいないですよ」

「うぅ、誘っていただきありがとうございますぅ……。ど、どうやってグループ作るか分からなかったんですぅ……!」


 泣きそうになりながら紅は虹ヶ浜に近付きお礼を言った。

 紅叶あかい かなう。まるで守ってあげたくなるような可愛いらしい女の子だが、贅沢過ぎると言っていいほど素晴らしい体つきをしている。


「はーい、じゃあ三人組できたら私のところに来てくださいねー。くじ引きしまーす」

「わ、私が行ってきますね……!」

「ありがとう紅さん」


 そして、くじ引きの結果でとある男子生徒三人とグループになった。とても嬉しそうであった。


「じゃあ、それぞれメンバーの名前書いてきてねー」

「に、虹ヶ浜さん……! この紙に名前を書くみた、うひゃあ!」


 グループとなった男子生徒を引き連れ、紙を持って来る途中、紅は誰かの荷物に引っかかり大きく宙を舞った。彼女はそのまま胸を虹ヶ浜の顔面に激突させ床に倒れ込んだ。


「ぶふっ!」「ひゃあ!」


 押し倒された虹ヶ浜。紅は勢いでスカートがめくれてしまう。


「……何みてんの?」

「「「す、すいません!」」」


 その光景を目の前にした男子生徒三人は神黄に指摘されすぐに目を逸らした。

 のちに彼らは語る。可愛い女の子が可愛い女の子を押し倒す、人生で一番素晴らしい景色だったと。以降、これを超えるものには見ることはなかったと。


「ぷはっ! あ、紅さん大丈夫ですか?」


 虹ヶ浜は紅の胸から抜け出して、彼女を心配する。神黄は紅のスカートを直してあげた。

 だが、相手に失礼なことも、自分でも恥ずかしい思いをしたはずなのに紅は何も言わず、ポーッと虹ヶ浜を見つめていた。


「紅さん?」

「……はっ、す、すみません……! お怪我はないですか?」

「え、えぇ。大丈夫です」

「か、神黄さんもありがとうございます……!」

「別に。普通のことしただけだから」


 ──紅さんの様子少し変だったけど何だったのかな。それに神黄さんもああ見えて良い人なのかもしれないなぁ……。


 トラブルはあったが、その後は特に何も起きず、無事虹ヶ浜はグループが作れた。


「はーい、じゃあこれでHRは終了ですねー。来週の校外学習が楽しみですね。みんなで大縄跳び大会の練習頑張っていきましょう!」


 長内は一人元気よくガッツポーズをした。


「せーんせい、HR終わりましたよ、私の立派な指揮見てくださいました?」

「……え? ああ」

「寝てましたね、先生?」

「ああ」

「もう! これで今日は終わりなんですからちゃんと起きててくださいよ!」


 長内と灰帰はいきは少しばかり揉めたが(長内からの一方通行のみ)今日一日の行程は全て終了した。

 次回、大縄跳び大会! の練習である!

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