5 授業
昼食を終えて教室へ移動。
学年ごとに三クラスずつある。
一つのクラスは十五人から十八人だ。
琥太郎はC1の2、つまり中学の一年二組である。
友人三人ももちろん同じクラスだった。
十二時半くらいになるともうほとんどの生徒が教室に来ている。
少年たちは各々のグループに別れて時間を潰していた。
ちなみに学校にいるのはすべて男子のみである。
琥太郎は仲間たちと雑談をして過ごした。
午前中の仕事の愚痴、昨日見たテレビの内容、授業後のクラブ活動について。
この自由のない街でも若者にとって語ることはいくらでもある。
一時になると担任の教師がやってきた。
「さあ、席につけー」
遊んでいた者も喋っていた者も大人しく自分の席に座る。
ちなみに授業妨害の類は重大な問題行為であり、後ろに飾ってある女王の肖像画から強烈な叱責が飛んでくる。
ペナルティとして配給の食事の量を減らされることもあるから要注意だ。
一日の授業は二単位。
一限五十分ずつで間に十分休憩が入る。
科目は現代文、数学、技術、世界学、国学(紅武凰国の政経地理)、地域学(ウラワコミューンの政経地理)のいずれかだ。
今日の一限目は地域学である。
「我々三等国民の区分には大きく分けてインダストリーコミューンとファーミングコミューンがある。ここウラワコミューンはどちらに属するか? 真男!」
「インダストリーコミューンです」
「正解。皆も午前中は勤労に励んできたと思うが、ここウラワコミューンは国内でも有数のモノ作りコミューンだ。二等国民の間でもメイドインウラワと言えば信用あるブランドなんだぞ」
教科書は個人で携行せず授業前に貸与され、二人一組で見て授業が終わったら返却する。
授業のほとんどは教師が説明しつつ時々生徒に話を振るというシステムだ。
板書は一切せずにノートを取ることもない。
必要なことはくり返し教えることで自然にみな頭に入っていく。
そもそも技術の授業を除けばそれほど難しい内容の講義は行われていない。
普通にこの街で暮らしていくのに十分な知識を九年かけてゆっくりと学んでいくのだ。
「二等、三等との区別はあるが、それは決して我々三等国民が二等国民より劣っているという意味ではない。三等国民は紅武凰国の経済を支える重要な役目を担った誇るべき階級だ。君たちも自信を持って日々の職務を全うしてくれ」
二限目は世界学。
「現在、ユーラシア大陸では三つの連合国家が互いに領土を奪い合う戦争をしている。そのうち一つが紅武凰国の盟邦であり、かつては同じ一つの国家だった日本国を盟主とする東亜連合だ。各連合はそれぞれにまったく異なる文化を持っているが、いずれも科学技術の面では紅武凰国から二百年ほど遅れていて……」
琥太郎は教師の声を聞きながらうつらうつらと船を漕いでいた。
学校は好きだが、どうにも授業は苦手だ。
ひたすら眠くなる。
がっくんと大きく首が振れたと同時に脳天に強烈な衝撃が走った。
「痛え!」
「そこ、居眠りするな!」
教師が投げた重さ一グラムの分銅である。
なぜこんなモノを持ち歩いているのかと言えば、今みたいに授業を真剣に受けていない人間に痛みを伴う罰を加えるためだ。
額にクリーンヒットを食らった琥太郎は頭を押さえて蹲る。
教室には爆笑の渦が巻き起こった。
「琥太郎、ドンマイ」
「……うるせえ」
笑いをかみ殺しながら声をかけてくる和喜雄を苦々しく思いながら、すっかり目の覚めた琥太郎は残りの授業をマジメに聞くことにした。
※
三時からはクラブ活動の時間である。
クラブは大きく分けて職能系と趣味系に大別できる。
職能系では読んで字の如く仕事に関する資格を得ることができる。
授業の延長上みたいなもので、例えば溶接技術や危険物取り扱い、人員管理なども学ぶことができる。
資格が多ければ任される仕事も増えるので将来のために役立つクラブである。
一方の趣味系は今を楽しむためのクラブ活動だ。
文化系と運動系があり、それぞれ同好の士が集まって趣味や関心を追求していく。
将来仕事で役立つことは少ないが、学生のうちしかできないことに全力で打ち込むことができる。
クラブ所属に制限はないのでいくつ掛け持ちしても構わない。
ある日は趣味に没頭し、ある日は将来のために技術を学ぶというのも良い。
ちなみに琥太郎、洋一、真男、和喜雄の四人組はソフトボールクラブ一筋である。
体操着に着替えてグラウンドに行くとすでに他のクラブ員たちは全身集合していた。
「練習を始めるぞー!」
高校三年生のキャプテン、徹二の掛け声と共にクラブ開始。
まずはランニングからだ。
「イチ、ニ!」
「イチ、ニ!」
今日の琥太郎は仕事中も駆け回っていたし、バスを待たずウォーキングもしたが、ほとんど生徒はここが一日で初めての運動タイムになる。
キャプテンの徹二を先頭に声を張り上げながら一周四百メートルのグラウンドを廻った。
小学生もいるので初めはゆっくり目にスタート。
二週目からは中学生以上、三週目は基本高校生だけになる。
その都度ペースも上がっていき、ラストはほとんど全力疾走状態だ。
「中学生もついて来られるやつはついてこい!」
「はい!」
琥太郎は三週目になっても脱落せず高校生のペースに合わせて最後まで付き合った。
流石に走り終わる頃には息も上がっているが、何とか三番手をキープすることに成功した。
「ハァハァ……やっぱ徹二さんと直太さんには敵わないな」
「いや、あの二人にあれだけついて行けるんだから十分だよ」
二周目で脱落し一足先にストレッチを終えた洋一が軽く琥太郎の肩を叩く。
「よーし、身体をほぐしたらすぐミニ試合行くぞ-!」
副キャプテンの直太が手を叩きながら号令をかけた。
クラブ員は全部で十八人、二チームに分かれて試合をするにはギリギリの人数だ。
内訳は高校生が七人に、中学生が琥太郎たちを含めた六人、小学生が五人である。
一人でも休んだらまともに試合ができないのでクラブの出席率は非常に高い。
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