第8話

結局押しきられて話を聞く羽目になった。

そして聞いた話はとんでもなかった。

貴族なら政略結婚は当たり前だ。

なのに目の前の少女はそれが嫌だからぶっ潰すと言う。しかもだ、自慢になるが俺はこの国の王子でしかも王太子、つまりは未来の国王だ。その俺を利用し、さらには全てが終わり次第自分を捨てろと言う‥‥訳がわからない。しかしこの少女は使えるかも知れたい。

俺には婚約者がいる。彼女の案を実行に移すにはとても大きな壁になるだろう。


だから俺は条件をだした。


「俺にはすでに婚約者がいる」

「は?」


彼女はとても驚いていた。藍色の瞳を限界まで広げ、口を大きく開けている。先程までの勝ち誇っていた態度が嘘のように瓦解しとても間抜けな顔だった。

これは笑える。思わず笑みがこぼれ、俺はさらに続けた。


「その婚約破棄に手を貸してくれたら協力しよう」


この時の俺は自分でも分かるほどいい笑顔をしていただろうな


☆☆☆☆


彼女が間抜けな顔をさらして数分、ようやく我に返ったのか慌てて顔を引き締める。

くっくっくっ、睨んでる睨んでる

だが、あんな顔をした後でそんなに睨まれても全然怖くない‥‥嘘です、とても怖いです‥‥


「わ、悪かった、すまない、だからこの後ろにはいるやつにナイフを下ろすように言ってくれないか?なるはやで!!」


そう、彼女の睨みが愉快でまたからかおうとしたらいつの間にか俺の後ろに来た黒装束が俺の首筋にナイフを当てていた。

怖いわっ!!てか、俺、王族!!王太子!!

不敬罪で処刑するぞ!!


「大丈夫ですわ、彼らは死体の処理に関しても一流ですのよ?証拠一つ残しませんわ」

「それはそれは優秀ですねーじゃないわっ!!」


なに?俺の考えが読まれた?

これでもポーカーフェイスには自信があったんだが‥‥


「ふぅ、下がっていいわ」


彼女がそう告げると黒装束は音もなく俺の後ろから消え彼女の後ろに現れた

なにあれ?

すごくない?てか、俺もほしい‥‥


「あら?この子達が欲しいですか?」

「‥‥また読まれた‥‥自信なくすわ‥‥」


そんなに欲しそうにしてたのかな?

彼女は口元に手を当てくすくすと笑う。

ちょっとかわいいじゃないか‥‥


「ふふ、そうですわね、これから殿下とは密に連絡が取れるようにしたいですし‥‥一人貸しましょう」

「え!?」

「ルイ」

「っ!?」


彼女が名前らしい単語を口にすると今までいた黒装束とは別に一人現れた。

え?ここ屋上‥‥どこから来た?

俺が驚いている間に彼女は新しく現れた黒装束に向かって口を開いた。


「あなたはしばらく殿下着きにします。異論はありませんね?」


有無を言わせない彼女の態度に思わず息を飲む、ルイと呼ばれた黒装束はコクりとうなずいた。


「殿下は私と違ってあなた達を判別できないでしょ?だから殿下着きの間は名前をルイスと名乗り、顔も出しなさい。」

「は!!」


彼女が命令すると黒装束は纏っていた装束を脱ぎ捨てた。そして現れたのは茶髪のどこにでもいるような少年だった。


「殿下、ルイスを貸します。どうぞ、好きにお使いください」

「‥‥‥‥」

「殿下?」

「え、あ、うん、ありがとうございます」


一連の流れについていけず思わず黙り混み、返事を催促する彼女に敬語でお礼を言ってしまった。

くっ、不覚‥‥


「それでは今日はこれで」


そう言うと彼女は立ち上がり屋上から立ち去ってしまった。

残ったのは俺とルイスのみ、

これからどうしよう‥‥

俺は新たにできた問題に思わず空を見上げた。

見上げた空は俺の心境を嘲笑うように快晴だった‥‥‥

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