第9話
「少し休憩しましょうか、先輩?」
「ああ、そうだな」
「先輩は元気がないと返事が短くなりますよね。どうかしたんですか?」
「いや、月曜日のことを思うとな」
「ああ、日曜日ってちょっと憂鬱ですよね」
「いや、そうじゃなくて、あの幼馴染みがな」
「まだ、さっきのこと気にしてたんですか?もっとデートを楽しんでください。とにかく、どこか休めるところへ入りましょう」
「楽しめって、写真送ったのお前だろうが…」
都合の悪いことは聞き流し、葵はフードコートへと入っていく。二人は買ってきた昼食を食べ始める。
「そういえば、先輩、うどんが好きなんですか?」
「随分、唐突だな」
「いえ、いつもうどんばかり食べているし、今もうどんを食べているので少し気になって」
「なぜお前が、俺がいつもうどんを食べていることを知っている?というか、うどんを食べてるのは一番安いからだ」
「そんなんじゃ栄養偏りますよ?」
「うるせえ。お前こそケーキばっか食って太ったんじゃねえのか?」
「な、なんでそれを!というか、別に太ってないです!」
「図星か」
(武田が作った資料に書いてあったんだよなあ)
「なあ、あれって?」
「え〜マジで言ってる?」
大介は近くから、嫌な視線を感じた。見せ物にされているようなそんな視線である。
「なあ、あそこの席の奴ら、知り合いか?」
大介は声のボリュームを落として葵に聞いた。
「あそこって……」
その席に座っている二人組を見た途端、葵はひどく動揺していた。
「な、なんで、ここに!」
「やっぱり、知り合いか…」
(それもあまり関わりたくないような奴ら、だろうな)
大介たちが向こうに気づいたとき、向こうも大介たちの正体に確信がもてたようで、二人組の男達がテーブルまで寄ってくる。
「あ、やっぱりアオちゃんじゃん?」
「久しぶり〜。そっちは新しい彼氏?」
「その、ひ、久しぶり、小野くん、山岡くん。この人はえっと…」
男達の口ぶりは一見、再会を喜んでいるようだが、視線や態度からは嘲りが感じられる。さっきまでの態度が嘘のように、小さくなっている葵を見て、大介はこの場を離れるべきだと判断した。
「やあ、どうも。あ、もうこんな時間か。悪い、俺達、そろそろ次の用事があってさ」
「そんな連れないこと言わないでくださいよ〜。あ、こいつの中学のときの話聞いたこととかありますか?」
「あ、あの話か〜。そうそう、こいつ、アオちゃんに告られたんですよ〜」
(こいつら、それをネタにして、いじめてたんだろうな。それなら、相葉の態度に説明もつくし)
「そ、その話は」
葵が何か言おうとしたのを、大介が手で制す。大介自身、彼らの態度に腹が立っていたし、後輩にカッコ良いところを見せようとしたからだ。
「それで、お前はこいつが男だから断ったのか?」
「ちょ、彼氏さん、何、怒ってんすか〜。あ、彼氏なんだから、もしかしなくてもそっち系ですか〜?」
「男だから断ったんだな?」
「は?そりゃあそうでしょ〜。男から告られるとか気持ち悪いし〜」
「違うな。それは、お前に覚悟がなかっただけだろ。こいつのを咥える覚悟が」
「な、何言ってんすか?」
「お前みたいのがいるから、こいつは」
「先輩、もういいですって」
「いいや、これだけは言わせてもらう。こいつは確かについてるけどな、か弱い女の子なんだよっ!」
「は、はあ?」
「おい、もう行こうぜ。この人絶対ヤバイって」
男達は大介の気迫に押されてどこかへ行ってしまった。
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