第8話
「なあ、お前、ここって…」
「はい?水着売り場ですけど?」
「そうだよな。水着売り場だよな…って何でこんなところにいるんだよ?」
「まあ、水着を買いにきたからでしょうね」
「お前、タオルを買いにきたんじゃなかったのか?」
「さっき水着も買うって言ったじゃないですか」
「言ってたか?」
「言いましたよ」
「ああ、そう、まあ、適当に選んでこいよ」
「何か投げやりですね……あ、お姉ちゃんだ」
「何?お前の姉だと?あ、なんか無性に水着を選びたい気分だなぁ〜」
葵がいたずらに成功した子供のような笑顔を大介に向ける。
「嘘ですよ、先輩。でも、先輩は水着を選びたい気分だったんですね!そんな先輩には私の水着を選ばせてあげます」
「冗談だよな?」
「ふふっ、流石に冗談です。私の水着に興奮した先輩に襲われかねませんしね」
「…ねえよ」
葵が外で待っていても良い理由をくれたことを感じとった大介はその場を後にしようとした。しかし、ふと、思いとどまる。
(こいつ、気丈に振る舞ってるけど自分の性について話すとき、なんか見栄張ってるように見えるんだよなあ)
「と思ったけど、お前の可愛い水着が見たいな〜なんて…」
葵は少し驚いたようだったが、大介の意図を理解して、すぐに次の言葉を繋いだ。
「まったく、本当に、先輩は変態ですね」
言葉とは裏腹に葵は嬉しそうにしていた。
「先輩はどんなのが好み何ですか?」
「いや〜そうだな〜ええっと〜」
(カッコつけたは良いものの、水着の種類なんてわかんねぞ!これエロいやつとか言ったら殺されるよな?)
「上下があるといいなあ」
「大体の水着が上下あると思います、先輩。というか、男の子用の水着で〜とか女の子っぽいやつ〜とかまだ気にしてるんですか?」
「いや、そんなんじゃねえよ」
(気にしてんのはエロいやつだけだよ!)
「あの、先輩、いつものお礼といってはなんですが、先輩の好きな水着を着てあげてもいいんですよ」
「はい?今、なんて?」
「ですから、先輩の好きな水着を、その、着てもいいんですよ?」
恥じらいながら、そう言った葵の前で大介の理性は弾け飛んだ。
「じゃ、じゃあ、これで、あ、いや、こっちで」
カシャっとカメラの音がする。葵がスマホを大介に向けていた。
「先輩、両手にマイクロビキニの絵面、なかなかすごいですよ。とりあえず、この鼻の下を伸ばしている写真、美咲先輩に送っておきますね!」
とりあえずの選択肢が厳しすぎた。
「い、いや、ほら、お前の可愛い水着がみたいな〜なんて…」
「この場合、可愛いのは私じゃなくて水着ですよね?」
いつもと同じ笑顔だったが、目は笑っていなかった。
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