第2話
楽しいやりとり(大介以外)も一段落して、彼らは、学校に向かうために電車に乗った。片田舎の電車でも、出勤や通学の時間ともなればそれなりに混雑する。彼らも真ん中の方に陣取ってブレーキのたびに訪れる波をなんとか耐えていた。
「なあ、拓実、あの子ちょっと変じゃないか?」
不意に大介が言った。
「俺の後ろをさして、変とか言われても見えないんだけど」
「いいから、見てみろって」
「ああ、確かに。なんであの子スラックス履いてんだろうな?」
「うちの学校、女子でもスラックス履いていいし、別に変なことでもないでしょ?まあ、あんな可愛い子がスカートを履いてないのは、ちょっと気になるケド」
チラッと大介の反応を伺いつつ横から美咲が口を挟む。
「いや、そうじゃなくて……ちょっと見てくる」
「あっ、おい」
混雑している電車の中で動くのは容易ではないが、その時の彼の行動力には目を見張るものがあった。それもそのはずである。男の子的な正義感と、夜更かしによるハイテンションに加え、可愛い子と仲良くなれるかもしれないという下心が彼を突き動かしたからだ。
「オジサン、そんなにケツに触りたいなら、俺のを揉ませてやるよ」
大介は男の腕を掴む。男は大介の尻を揉む。いや揉まなかった。男の子なら一度は想像しそうな場面だが、実際に遭遇するとあまりカッコいいことは言えないものである。さらにカッコ悪いことに、電車が止まった拍子に男の手を離してしまった。大介がもう一度捕まえようとした頃には、男は人の波に紛れて電車を降りていた。
「あの、ありがとうございました。」
そう言って少女は笑顔を浮かべる。
「い、いや全然。捕まえられなくてごめんな」
少し声が裏返ってしまったのはご愛嬌だ。
「うちの制服が見えてちょっと様子が変だったから」
間を埋めるように大介は早口で言った。見惚れていたことがバレないようにするためのちょっとした方便だった。
電車がカーブに差し掛かる。そこで信じられないことが起きた。まるで吸いこまれるように、大介は少女の方へと倒れたのである。
(こ、これはラブコメ特有の!)
その瞬間、大介の腕は少女の胸にあたっていた。そう、あたっていたのである。だが大介が感じたのは言い様のない幸福感ではなく、形容し難い違和感だった。
(なんだろう?少し変な気が。)
「んっ、あっ」
大介は違和感の正体を確かめるのに夢中になっていた。そうすると当然、周りからは胸を揉みしだいているように見えるわけである。後ろから美咲のパンチが飛んでくるのは考えるまでもないだろう。
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