お前、男の子なの?
@zakiso
第1話
春、出会いの季節である。健全な男子諸君ともなれば、素敵な女の子に思いを馳せる季節、彼の頭の中もピンク色に染まっていた。
「いやー、春って素晴らしいよな」
駅のホームでスカートが横になびくのを目で追いながら、独り言のように彼は言った。
「セクハラで訴えられても文句いえねぇぞ、ダイ」
「黙れヤリチン。お前にだけは言われたくねえよ」
「そのあだ名はやめろって言ってるだろ。余計な誤解が生まれる」
「いいじゃねえか。ほとんど事実なんだし」
「俺に変な設定をつけ加えるな。俺は彼女一筋だ」
他愛のないやりとりを繰り返す。いや、独り身のダイスケにとっては、なかなか辛い話である。人当たりがよく、スポーツ万能、いわゆるイケメンキャラに該当する、この男の名前は
「どっかにお姉さん売ってないかなあ」
タクミが額に青筋を立てていた。
「お前、その発言は相当気持ち悪いぞ。そんなに女の子に触りたいなら、今度、行きつけの風俗に連れていってやるよ」
「お前、何でその年齢で行きつけの風俗があるんだよ…」
この発言に関しては、大介の方がドン引きだった。イケメンであること、スポーツ万能であることを差し引いてもお釣りがくるくらい、いやむしろ、イケメンであるがゆえに残念な男だった。
「朝からヤリチンに風俗とは、穏やかじゃないわね」
そう言って、話しかけてきたのは
「よお、幼馴染み」
「いつも名前で呼んでって言ってるでしょ。どうして属性で呼ぶのよ?」
「いつも、幼馴染みっていう言葉にどれだけロマンがつまっているか解説してるだろ?どうしてお前は頑なに名前で呼んで欲しがるんだよ。得ようとしても得られないお前だけのアイデンティティだろうに」
「あんた、アイデンティティの意味わかって言ってんの?」
「自己同一性、一貫した自己や自我だな、おはよう、美咲」
答えたのはダイスケではなく、タクミだった。
「おはよう、拓実」
「お前、最後におはよう、美咲って言わなきゃ、俺の発言に見えたかもしれないのに」
「折角フォローしてやったのにひどい言い様だな。」
そう言って、拓実は少し人の悪そうな笑みを浮かべる。
「それよか美咲、こいつまだお前のこと名前で呼んでないのか?」
「あっ、お前っ、やめろって」
美咲は少し頬を赤らめて、
「その、別に、本当にあんたが嫌なら、上の名前でも、いいんだよ?」
身長差から自動的に上目遣いとなる上に、普段とのギャップが激しい彼女の前で断れる男はいないだろう。
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