第6話
「それで、このトンネルがお前らの連れてきたかったところなのか?」
「そうです」
「少年、ここからは手を繋がなければならん。ほら」
そう言ってミアは手を差し出してくる。確かに周りは暗くなっているが…
「いやいいよ。一人で歩けるし」
「はは〜ん。照れたんですね?男のデレとか気持ち悪いだけですよ?」
「まあ、お前と違ってヴェーバアさんは美人だからな」
「ムカッ。今言ってはいけない事を言いましたね!」
「こら、喧嘩するな。語弊があったか。この先は一般の人間に気付かれないように細工してある。私が触れて能力を行使していなければ辿り着けないのだ」
「…わかりました」
能力の行使とやらには納得いかない。が、美人の手を握れるなら…俺はゆっくり手を握る。
「お前は握らなくていいの?」
「私はもう気付いていますので。せいぜいミアさんの手の感触を楽しんでください」
言われなくとも。
「さあ、ついたぞ」
「ここって…まだトンネルの途中ですけど」
おもむろに、ミアさんは銃を取り出す。そしてトンネルの空間に向けて弾を撃つ。
「ちょ、何して…」
俺はそこで言葉をとめた。視線の先では、銃弾が途中で、透明な壁にはじかれていた。この町、いや、もっと広いだろうか。周囲を囲むようにドーム状の壁が現れる。
「なんだ……これ…」
「平凡な感想ですね。でもこれが現実です」
「これは通称『殻』だ」
「殻って……というかこれ、どこまで広がって?」
「わからん。が、相当広い」
「でも、これとあんたらに何の関係が?」
「私たち能力者は全員この中にいる。集められたのだ。そして私たち以外の能力者は気づいていないことだが、殻ができた日、私たちに能力が与えられ、戦いが始まった」
「始まった?どうしてそんなことがわかるんだ?」
「それが私の能力だからだ。『気づくコト』、改めてよろしく」
「まあ、始まった日は全員わかりますがね。頭の中にアナウンスが流れましたし。ミアさんの能力のすごいところは、そこでは無いです。始まったと同時に『殻』ができたことに気づいたことです」
「これ、破れないんだろうな。…世界を救うってこの事か?」
「察しがいいな。これを破ることが我々の目標だ」
「そのために殺し合いを勝ち抜くのか?」
「その場合君は死ぬが、それでもいいのか?」
「いや…というかあんた、世界を救えば、俺は死なないって言ってたじゃねえか」
「そうだ。ではどうすると思う?」
「さあな。勝ち抜く以外でこれを破る方法があるとか」
「正解だ。10人の中にこれを設置した奴らの仲間、もしくはそれに準ずる者がいる。ソイツを見つけ、殺すことがこの『殻』を破ることとなる」
「見つけるって具体的には?」
「裏切り者はコイツだー!と叫べば良いそうです」
「単純だな。じゃあ全員に言っていけば良いんじゃねえの?」
「まあそう簡単にはいかない。宣言できるのは全体で一回だけだ。それに相手が裏切り者ではなかった場合、宣言した者は死ぬ」
「全体って10人全員でか?」
「そうだ」
「もう言ってる奴がいるとか、裏切り者はもう死んでるとかないのか?」
「それは無いです。現時点で亡くなったのは一人だけで、その人が裏切り者であることはおそらくありません。そしてその人は宣言をしたから死んだわけでもないです」
「そうか…。でもこれがあんたが拳銃を持ってもいいのとどう繋がるんだ?」
「簡単だ。この『殻』の中での戦いの一切は基本的に一般の人に気づかれる事はない」
「んな、アホな…」
「でも、事実だ。それにな、少年。この『殻』の中だけで食料生産が足りると思うか?」
「急になんだよ」
「いいから、考えてみろ」
「『殻』って相当広いんだろ?だったら…」
「いえ不可能です」
「外から運んでくるんだよ。これを作った奴らが」
「それはわかったが、結局何が言いたいんだよ?そこから脱出でもしようってことか」
「ふむ。この『殻』を作った奴らはな、私たちに快適な殺し合いの場を用意したんだ。悪趣味だと思わんか?」
言葉はいつもと変わらないが、彼女の声には確かに怒気がこもっていた。
「確かにな……」
それに本当に姉がこの戦いに参戦していたなら…
彼女は手を離してこちらを向く。そして芝居がかった声で言う。
「少年、二つに一つだ。私と来て世界を救うか、今ここで死ぬか」
「いいぜ。救ってやるよ。死にたくはねえしな」
「その前に言うことがあるんじゃないんですか〜?」
「言うこと?……ああ、厨二扱いして悪かったよ。それに、俺は好みじゃないけど、お前も充分、可愛らしいと思うぞ」
「な、何言って…ってその手には乗りませんよ。私はチョロインではありませんからね!」
顔を赤くして言っても説得力ねえよ。
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