VOL.5
その日・・・・いや、正確には翌日である。
真夜中過ぎ、俺はある場所にいた。
閉まっている間仕切りの向こうからは灯りが漏れ、小さな音で昔の映画音楽(”ひきしお”だったかな?忘れた)が流れてくる。
俺は椅子に座ったまま、M1917を取り出し、シリンダーを開け、ハーフムーンクリップに噛ませた弾丸を六発詰め、続けてビデオカメラを三脚に取りつけ、セットした。
時刻を確かめ、ソファに横になる。
隣室からは相変わらず映画音楽と、細かくペンを動かす音。
そう、ここは”彼女”の仕事場だ。
どれくらい経ったろう。
チャイムの音が俺の耳に届いた。
”はーい”
ペンの音が止まり、彼女が答える。
”あら、・・・・君じゃない?ヤマオカさんはどうしたの?”
相手の声は聞こえないが、誰が来たのか、見当はついている。
俺はそっと、テーブルの上のM1917を手に取る。
”ちょっと、・・・・君、何の真似よ?!”
細く開けた仕切り戸の隙間から、向こうの様子を垣間見た。
思った通りである。
チェックのジャケットにぼさぼさ髪、それに黒縁の冴えない眼鏡・・・・それしか印象に残らない男。
即ち、岡田弘、その人だ。
だが、いつもの彼と違っているところがある。
黒縁眼鏡の奥の目が、異様に光っている事。
それから、彼の手に黒光りする拳銃。モーゼルHSCが握られている事、
この二つだ。
モーゼルの先端には、サプレッサー(消音器)が取り付けられてあった。
恐らく自作のものだろう。
俺は迷わず間仕切りの戸を開け、彼に向ってM1917を突き付け、
『動くな、銃を捨てろ!』
と叫んだ。
だが、奴は俺の言葉に従わなかった。
薫の方に向いていた銃口が、俺の方に逸れる。
鈍い銃声が二発、狭い部屋に響き、一発は壁に、もう一発はバルコニーに面したガラス窓に当たった。
『頭を下げろ!』俺の声に、弾かれたように薫は身を縮める。
俺は片手でM1917を構え、そのまま引き金を絞った。
二連射だ。
一発は吉田の右肩に、もう一発は右の脇腹を掠め、後ろの壁に命中した。
奴は銃を放り出し、その場に倒れ込む。
机と椅子が倒れ、漫画を描く道具が辺りに散乱する。
俺は大きく息を吸い込むと、奴の側に歩み寄り、落とした銃を拾い上げ、屈んだまま震えている薫に、
『しっかりしろ。早く、110番だ!』と叫んだ。
それからの顛末は、まあ何時もの如しだ。
ええ?
(省略をするなよ。何かあったんだろう?)だって?
パトカーが来るまでに、俺は簡単に奴の傷口を調べた。肩に当たった俺の弾は貫通しており、もう一発は奴の腰の肉を数ミリ抉っただけだった。
俺は手持ちの救急キットで、奴の傷口の応急措置を済ませる。
『何故・・・・あんたがここにいる・・・・?どうして僕だと分かった?』
青い顔をし、荒く呼吸をしながら、眼鏡の奥から俺を恨めしそうに睨みつけ、吉田は言った。
『俺を誰だと思ってる?プロの探偵だぜ。こんなもの、推理の必要なんかない。くろだ薫の居場所や正体を容易に把握できる人間。ああも度々脅迫状を出せる人間となれば、自ずと絞るのは難しくないさ。さて・・・・』
俺はM1917をしまい、もう一度奴の前にかがみ込み、シナモンスティックを一本咥えた。
『料金分の仕事はしなくちゃな。
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