第4話

 玉森が最初に向かったのは、山城雪乃の自宅だった。彼女は銀閣寺近くの瀟洒なマンションに住んでいた。エレベーターで4階にあがり、「山城」と表札がかかった部屋のインターホンを押す。しばらくして、妙齢の美女が顔を出した。寝起きなのか眠たげな顔をして、ガウンをまとっている。

 透き通るような白い肌と、長いまつげに覆われた漆黒の瞳。黒々とした髪は、艶めかしく鎖骨のあたりでウエーブしている。まるで、おとぎ話に出てくる姫君のようだ。見惚れていたら目があいかけたので、美咲は慌てて顔を伏せる。美女はぼんやりと美咲を見て、こちらに手を伸ばしてきた。えっ、何? 美咲は驚いて身を引く。


 すると玉森の腕が伸びてきて、雪乃の手を掴んで降ろさせた。

「寝ぼけてます? 雪乃さん」

 彼女はしばし眠たげな顔で玉森を見ていたが、はっと覚醒した。

「ごめんなさい……徹夜明けで」

 雪乃は顔を赤らめ、美咲たちを中へと促した。室内は冷房がききすぎているのか、やけに冷えていた。キッチンとバスルームの横を抜け、リビングに通される。生活雑貨が最小限に抑えられたリビングは、ほとんど人形で埋め尽くされていた。ピアノと戸棚の上、ソファや窓際に至るまで、所狭しと並べられている。人形の種類はさまざまで、市松人形から西洋人形、マトリョーシカやこけしまである。どうやらこのひとは、かなりの人形コレクターらしい。

 テーブルについた美咲は、寒さに震えながら出されたお茶を飲んだ。お茶は歯にしみるほど冷たい。出されたケーキは半分凍っていて、フォークをさしたらがきんと音が鳴った。


「ごめんなさい。ケーキ、冷凍庫にあったものなの。解凍する時間がなくて」

 雪乃は申し訳なさそうに肩をすくめた。ガタガタ震える美咲をよそに、玉森は平然としている。よく見たら、ふわふわした毛皮を首に巻いていた。あれって式神だろうか。あったかそう……。

「寒いでしょう? でもこうしないとだるくって……大丈夫? ええと」

「最上美咲です。だ、だいじょうぶです」

 申し訳なさそうな雪乃に、美咲は歯を鳴らしながら答えた。玉森はテーブルの上に日本人形を置いた。

「こちらを見てもらいたいんです」

 雪乃は人形を持ち上げて、あらかわいい。とつぶやく。

「でしょう。ただ、ちょっといわくつきでしてね」

「人形には色んないわくがついてるものよ。でも……なんだか「足りない」感じがするわね」

 雪乃の言葉に、玉森は感心した。

「さすがですね、雪乃さん。そう、これは姉妹人形でして、もう一体あるんです」

「なるほどね。で、もうひとりはどこにいるのかしら」

 雪乃はキョロキョロとあたりを見渡した。ここにはいないんです、と玉森が言う。

「もう一体を探しだしたら、人形をお買い上げいただけますか?」

「もちろん。五十万までなら出すから、他の人に売らないでね」

「ええ、もちろんですとも。雪乃さん以上のお得意様はいませんので」

 玉森は艶然と微笑んだ。雪乃には随分優しいじゃないか。美咲は憮然とした。客だからなのか、それとも美人だからなのか……どちらにせよ、美咲への態度と随分違う。雪乃の部屋を後にした美咲は、腕をさすりながら尋ねる。

「あのひと、どういう人なんですか。すごい美人だから、モデルさんとか……?」

「いや、彼女は人形作家です。個展をひらくと、チケットが完売するほどの人気作家なんですよ」

 玉森は首から毛皮を外して答えた。雪乃自身が人形のように美しいのに、まさか作り手とは。リビングにあった人形の中には、雪乃の作品もあったに違いない。美咲が並べられた人形たちの顔を思い出していると、玉森がじっとこちらを見てきた。

「な、なんですか」

「美咲さん、辰年ですよね」

「え、そうですけど」

「じゃあ僕より年上だ。敬語はやめてください」

 年上といっても一個しか違わないのだけど。それに、敬語を使おうが使うまいが玉森のほうが偉そうなことに変わりはない。

「それで、人形はどうやって探すの?」

「そうですね……その前に、お腹が減りませんか?」


 玉森が向かったのは雪乃の自宅近くにあるうどんやだった。昼時だけあって、中々混みあっている。玉森はひやざるをすすり、時折りテーブルの下に手を潜り込ませた。膝に乗せた式神のぐーちゃんにひやざるの麺の切れ端を与えているのである。玉森はぐーちゃんの頭を撫で、温かいうどんを食べる美咲を不可解そうに見る。

「この暑いのに、よくそんなもの食べられますね」

「さっき凍るような思いをしたからよ。もふもふの式神を持ってる玉森さんとは違うの」

「昔みたいにタマって呼んでいいんですよ」


 玉森は指を組んだ指に顎を乗せ、きらきらとした笑顔を向けてきた。美咲は顔をそらし、あのときは子供だったから、と言った。幼いころは彼と顔を合わせても何も思わなかった。しかしアザを気にする年頃になって、だんだん会うのが怖くなってきた。本人ですら直視できないようなアザを、他人がどう思うかはわかっていた。同級生の男子たちは、美咲に「アザ菌」というあだ名をつけて囃し立てた。兄弟子たちは大人だったし、いつも美咲に優しかった。だけど玉森は何を考えているのかわからないところがあった。アザがうつるから寄るな。幼馴染の彼にそう言われたら、きっと深く傷ついただろう。


 幸い、玉森は中学生になる前に勉強会に来なくなった。まさかこんなに経ってから再会するとは。昔はもう少し可愛げがあったような気がするのだが……。そう思いながら、玉森を見る。

「うどん伸びますよ」

 そう言われて、慌てて麺をすする。温かいうどんを食べたら、かじかんだ手に温度が戻ってきた。食事を終えた美咲は、つけものをかじる玉森に尋ねた。

「それで、どうやってもう一体の人形を探すの」

「人形供養を依頼した家に行きます。青藍さんから住所のメモはもらっているので」

 しかし、人形供養に出したものをもう一度見せられたら、いい気はしないのではないか。美咲がそう言ったら、玉森が「すばらしい!」と言った。

「そこですよ、美咲さん。やっぱり鋭いですね。気を悪くするか、快く情報を教えてくれるか。そこで人形の持ち主の人間性が見えます」

 市松人形が何故泣いたのか。持ち主と離れたくないからか、それとも焼かれる恐怖からか。

「僕は後者に期待します。物を粗雑に扱う人間は嫌いですから」

 美咲はその言葉にむっとした。それは、銅鐸を投げた美咲のことを言っているのか。玉森はすっくと立ち上がり、憮然としている美咲に行きますよ、と告げた。


 市松人形を供養に出したのは、坂崎はるかという女性だった。はるかの自宅は東山地区にある団地で、遠くから見るとコンクリートの塊が並んでいるようだった。団地の中には公園があって、学校帰りの子どもたちが楽しげに遊んでいる。灰色の建物に近寄っていくと、遊んでいた女の子の一人がじっと見つめてきた。彼女はこちらにやってきて、玉森が抱いている人形をまじまじと見た。

「あ、やっぱりゆいちゃんだ」

 美咲は少女に人形を差し出して尋ねた。

「ゆいちゃん? あなた、この人形知ってるの?」

「うん、おばあちゃんの家にあったお人形だもん」

 美咲と玉森は顔を見合わせた。少女は坂崎ミクと名乗った。おそらく、坂崎はるかの娘だろう。うちに案内してくれないかと尋ねたら、ミクはあっさり頷いた。

玉森はミクについて歩きながら尋ねる。

「ミクちゃんはこの人形と遊んだことはありましたか?」

「うん。いっしょにおままごとして遊んだの」

 では、なぜこの人形は供養に出されたのだろう。美咲がそう思っていたら、ミクがでもね、と言い添えた。

「飽きちゃった。きせかえできないし、髪型も変えられないし」

 子供は好奇心旺盛なので、常に新しいものを求める。残酷だが、新味のない古い人形は飽きられてしまうのだろう。玉森はあくまで優しい口調で尋ねる。

「似たようなお人形が、おばあちゃんのおうちにありませんでしたか」

「ううん。でもね、ゆいちゃんにはお友達がいるって言ってた」

 お友達――それがもう一体の人形か。

 美咲は、ゆいちゃんのお友達の行方を尋ねたが、ミクは知らないとかぶりを振った。もう一体は紛失したか、それとも違う人間が所持しているのか。ミクは団地に入って、一階の突き当りの部屋の前で立ち止まった。彼女は掲げられた「坂崎」という表札を指さす。

「ここだよ、ミクのおうち」


 彼女はランドセルから鍵を取り出し、戸を開けた。この子、鍵っ子なのかな。保護者の留守中、勝手に家にあがるのはどうなんだろう。美咲はそう思ったが、玉森はまったく構わずに草履を脱いでいる。彼とミクを二人にするのも不安なので、美咲も靴をそろえて中に入った。リビングには和室が隣接していて、仏壇が置かれていた。仏壇には老女の遺影が飾られている。このひとがミクちゃんのおばあさんだろうか。美咲が仏壇に手を合わせていると、玉森が囁いてきた。

「ミクちゃんの相手をお願いできますか」

「いいけど……何する気?」


 玉森はノーコメントで微笑んだ。犯罪になるようなことだけはしないでよ。同行者としてそう念を押しておく。玉森は扇子を広げ、式神のぐーちゃんを放った。ぐーちゃんは引き出しの中や机の下に潜り込み、何かを探しているようだ。ミクはぐーちゃんを見ても驚いた様子がなかった。子供ってこういうの、アニメのCGとかと一緒だと思ってるのだろうか。

 ミクは自分の部屋からスマホを持ってきて、遊ぼうよ、と美咲を誘った。

「ミクちゃん、何年生?」

「3年生だよ」

「スマホ持ってるんだね」

「みんな持ってるよ、こんなの」

 美咲はその言葉に感心した。今や学校でタブレット学習をすると言うし、これが普通なのだろう。ミクは美咲にスマホを渡し、写真を撮るようにせがんだ。美咲はミクにスマホのカメラを向ける。


「はい、笑って」

 写真を撮ってスマホを返すと、ミクが不機嫌に言った。

「おねーさん、撮るのヘタ〜」

「ご、ごめんね」

「ミクが撮ってあげる」

 ミクは慣れた様子でスマホのカメラを向けてきた。そして、不思議そうに尋ねてくる。

「おねーさん、お顔が汚れてるよ。洗ってくる?」

 美咲は思わず顔をこわばらせた。声が震えないように返事をする。

「あ、ううん。これ、アザなんだ」

「アザ? 痛いの?」

「痛くはないんだ。あっ、お兄さんに撮ってもらおうか」

 美咲は玉森を呼んだが、彼は真剣な顔で冷蔵庫を覗き込んでいる。あんなところに一体何があるというんだ。

 ミクは写真にこだわりはなかったようで、あっさりと違うアプリを起動した。子供にとって、スマホは最高のおもちゃなのだろう。こんなものがあるんじゃ、人形遊びなんてするはずないか。美咲はため息をついて、テーブルに置かれた人形を見た。ミクと音楽ゲームをしていたら、玉森が「そろそろ母親が返ってきます。ずらかりましょう」と言った。なぜわかるのかと尋ねたら、彼は冷蔵庫を指差した。


「冷蔵庫の中身はほぼ空でした。壁に張られたスーパーのパートタイム表には水曜日が休みとある。つまり、母親は今日非番です。玄関にあったのはつっかけと長靴のみ。つまり彼女は普段履いている靴で出かけた」

 玉森はテーブルに乗っていたチラシを見せてきた。

「ついでに言えば、彼女が務めるまるいちスーパーは今日が特売日。これらのことから、ミクちゃんの母親は、勤務先のスーパーに買い物に行ったと推測できます」

「……それを確認するために冷蔵庫を見てたんですか」

 美咲はため息をついて、ミクに笑顔を向けた。

「ミクちゃん、お話聞かせてくれてありがとう。私達、帰るね」

「えー、もっと遊ぼうよ」

 ミクはそう言って美咲の手を引いた。玉森は身を屈め、ミクの顔を覗き込む。ミクは頬を赤らめて、「な、なに?」と尋ねた。

「ミクちゃん、僕の目を見てくれるかな」

「うん……」

 玉森に見つめられて、ミクはぼんやりとした表情になる。一体、こんな子供に何をする気なのだ。美咲はハラハラしながら玉森とミクを見比べた。玉森の瞳が赤く光って、ミクの姿を映し出す。玉森は美咲に、遺影を渡すように言った。美咲は困惑しつつ、遺影を差し出す。玉森は遺影をテーブルに立てて、指先で印を結んだ。

「オンマイタレヤソワカ、地の精霊よ。玉森の血において命ずる、かの物の魂をこの物におろしたまえ」

 玉森がそう唱えた瞬間、ミクの身体がびくっと震えた。そのままふっと意識を失ったので、美咲は慌ててミクを支える。


「ミクちゃん、大丈夫!?」

 ミクはしばらくうつむいたあと、ぼんやりと美咲を見上げて呟く。

「ミク……?」

 彼女が次に放った言葉に、美咲はぎょっとした。

「ミクは孫の名前だ……。私はマサだよ」

「五十嵐マサさんですね。お人形の持ち主の」

 玉森はそう言って、仏壇の引き出しに入っていた御朱印帳を差し出した。帳面には「五十嵐マサ」という名前が描かれている。ミクはぼんやりと帳面を見た。

「ああ、そうそう、札所に一箇所しか行けなかったのよねえ」

「西国めぐりは大変ですからね」

「おじいさんは全部行ったんですけど、わたしは体力がなくてねえ」

 声は幼いが、口調はやけに老成している。さすがに様子がおかしいと気づき、美咲は玉森をにらんだ。

「玉森さん、この子に何したんです」

「五十嵐マサ――ミクちゃんのおばあさまをおろしたんですよ」


 おろした? つまり、霊媒というやつか。美咲は心霊番組で見たイタコを思い出した。あれはどう見たってインチキだったが、目の前にいるミクの様子は異様だ。本当に、老婆が乗り移っているように見える。陰陽師って、霊媒術も使えるんだ……。

「マサさん、時間がないので単刀直入にお聞きします。あなたはこの人形をご存知ですね?」

 玉森はテーブルに乗っていた日本人形を差し出した。ミクは人形を受け取って、ぼんやりとつぶやく。

「ええ。ゆいちゃんです」

「この子には、お友達がいるそうですね」

「はい……」

「お友達の名前を教えてくれますか」

 玉森が尋ねると、ミクの身体が震え始めた。と同時に、急激に部屋の温度が下がり始める。美咲はハッとして、玉森の腕を掴んだ。

「やめてください、なんだか変です」

「まだ肝心なことが聞けてない。人形の片割れは?」

 玉森はそう言って印を結ぶ。すると、さらに部屋が寒くなった。ピシピシと家鳴りが響いている。ミクが耳をふさいで、悲鳴をあげてしゃがみこんだ。――だめだ。


 美咲は玉森を突き飛ばした。マサの写真に手を伸ばし、ごめんなさい、と言って伏せる。すると、ミクの身体からふっと力が抜けた。美咲はふらついたミクを抱きとめて、その丸い頬に手を当てた。大丈夫だ。ちゃんと呼吸しているし、温かい。ほっとしていると、玉森が不機嫌な顔で身を起こした。

「何するんですか」

「そっちこそ、子供に霊をおろすなんて。何かあったらどうするんですか!」

 美咲はきっと玉森を睨みつけた。霊をおろすのは熟練した修行者でないと危ない。テレビの神霊番組でそう言っていた。玉森は目を細めて、優しいんですね、とつぶやいた。

「アザのことを言われたのに。気にしてるんでしょう」


 美咲はかあっと赤くなってうつむいた。こちらの会話を聞いていたのか。それに、この人は美咲のコンプレックスに気づいていたのだ。わかっていて、化粧時間が長いなどと言ったのか。うつむいている美咲を見て、玉森が黙り込む。彼はスッと立ち上がって、遺影を仏壇に戻し手を合わせた。

「帰りましょう、美咲さん」

美咲は玉森の方を見ず、堅い表情で答えた。

「ミクちゃんが起きるのを確認して帰ります」

「そうですか。じゃあ」

 玉森は扇子を閉じてぐーちゃんを戻し、さっさと部屋から出ていった。美咲は唇を噛んで、ミクを抱き上げ、ソファに寝かせた。手を握っていたら、ミクがふっと瞳を開いた。彼女はパチパチと目を瞬き、美咲を見上げる。

「あ、おねえさん」

「大丈夫?」

「ミク、寝てたのかな。おばあちゃんの夢見たの」

 ミクは無邪気な様子で言った。美咲は微笑んで、ミクの頭を撫でた。団地を出ると、スピーカーから郷愁を誘う音楽が鳴っていた。五時になりました。皆さん、早くおうちに帰りましょう……。音楽と共に流れるアナウンスに従って、子供たちは皆帰途についている。


夕焼け小焼けかあ……。この曲を聴くと、帰宅願望が高まってくる。公園の前を通ると、玉森がブランコを揺らしていた。美咲は玉森を無視して通り過ぎようとした。すると彼はおもむろに立ち上がった。

玉森は、美咲の腕を引いてブランコに座らせる。

美咲はあまりの早業にぽかんとし、玉森をにらみつけた。

「ちょっと、なんですか」

「どうやったんです?」

「は?」

 至近距離から見下ろされて、美咲は視線を泳がせた。

「な、何がです」

「さっきのですよ。霊媒状態をとくなんて、簡単にはできない」

「写真を伏せただけです」

「だから、どうしてそうしたんです?」

 どうしてなんて聞かれても困る。なんとなくです、と答えたら、玉森が素晴らしいと言った。

「やはりあなたは勘が鋭い。なんとなくで陰陽師の術を破るとはね。詰めの甘さは僕が補いますから、うちに来てください。二人でいれば最強ですよ」

「子供を危険に晒すような人といたくないです」

 美咲はブランコから立とうとしたが、玉森はそれを許さなかった。いいんですか、と囁かれ、美咲はびくっと震える。傍目から見たら愛でも囁いているように見えただろうが、実際には脅しをかけられている状態だ。

「な、なにが」

「あなたの言う通り、僕は女子供でも容赦しない人間ですよ。放っておいたらあの子に霊を下ろして、何時間でも聞き取りをします」

「なっ……」

 どういう脅しなのだ、それは。美咲は玉森を睨みつけた。

「そんなことしたら、警察に通報しますから」

「なんて通報するんです? 霊を降ろしたから逮捕してくれって? そんな主張したら、むしろあなたが病院に連れて行かれますよ」


 確かにそうだ。玉森が不可思議な術を使って何かしても、証明しようがない。極論、式神を使って殺人をおかしても立証しようがないのだ。美咲は信じられない気持ちで玉森を見上げた。

「あなた、とんでもない人ですね」

「今更気づきました? 陰陽師っていうのは基本的に手段を選ばない集団なんです。もっとも、相手が人間じゃないからですけど。手を抜けば命に関わる」

「ミクちゃんは人間です」

「ですよね。だからあなたは放っておけないんです」

 玉森はそう言ってにっこり笑った。

「明日、午前9時に店に来てください。あなたを正式に雇う手続きをします。あ、印鑑をお忘れなく」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る