魔獣、嫉妬する

 装備を整え、気を良くした魔王ブランは、シャワーを浴びに行った。


 せっかくだからと、ボディチェックも兼ねて側近リキュールも一緒に入る。



 一人残された魔獣モヒートは、スマホを凝視していた。




 魔獣モヒートに、魔王の純愛を応援する気持ちは皆無だ。



 先代魔王から付き従っている魔獣からすれば、勇者は縄張りを荒らす敵である。


 また、彼は魔物だ。つまり動物なので、人間の恋愛観など特に興味がない。


 それは魔族と人間との間とて同じなのだ。



 魔王がフリフリのワンピース姿を見ても、内心は「初めて動物園に連れて行ってもらえる園児」にしか見えなかった。言えば殺されるだろうが。




 愛だの恋だのにうつつをぬかすヒマなど、魔王陣営にはない。


 先代魔王から続く因縁に終止符を打たねば。 



 いと小さき魔王の腕でモフられる特権は、我にあり。


 魔王の寵愛は、我にだけ注がれていればよい。



 性根はネコなので、ただのワガママなのだ。また、それが許されると思っていた。


 


 さっきテレビドラマのシーンが、頭をよぎる。


 犯人に拘束された女性刑事が、犯人の目を盗んで舌でスマホを操り、助けを呼んでいた。



 人にできて、ネコにできないことはない!



 幸い、魔王スマホのセキュリティコードは、解除されたままだ。


 今のうちに。


  


「えーっと、Die、と」



 あと少しというところで、魔王が風呂からあがってきてしまった!



「いやー、いいお湯だったな」


「シャンプーの香りがするーって勇者が顔を近づけるでしょうね」


「そそそ、そんなこと!」



 いまいましい勇者め! 魔王様にあんな顔をさせるなんて!



 内心イライラしながらも、彼は仕事を成し遂げた。



「DEATH!」


 これでカンペキだ。さすが魔獣モヒート、いい仕事をした。



 あとはウェットティッシュで唾液をフキフキして。




 直後、頭にタオルを巻いた、黄色いパジャマ姿の魔王が部屋に戻ってきた。


 後ろから、青いパジャマのリキュールもついてくる。



 


「ん? モヒートよ、吾輩のスマホをいじっておらぬだろうな?」


 


「滅相もございません。こうして見張っておりました」


 涼しい顔をしてごまかす。ネコなので、この手のやりすごしはお手の物だ。



 


「なーんか怪しいっすねー?」


 魔王の髪をドライヤーで乾かしてあげながら、リキュールはソファのスマホを持ち上げる。


 



「気のせいなり。我がイタズラをするなど」




 弁解しようとした途端、魔王が「あーっ!」と叫びだす。



 


「おおおおおおおおお! もももモヒートよ! 貴様なんてことを!」




 


「むむ? 発覚してしまっては仕方ありませんな。勇者に宣戦布告をしてやりましたぞ!」



 


 開き直って、モヒートは褒めて褒めてモードに。


 


 だが、側近リキュールの言葉で我に返る。


 


「ボクも大好きです、か。よかったじゃないっすかー」




「なんと! バカな、悪口を発信したというのに、なんという好意的な文言!」



 半信半疑のモヒートは、リキュールにメッセを見せてもらう。




「だい   すき   です」




 いびつながら、メッセージにはそう書かれていた。



「しもうた! ウェットティッシュで拭いた時点では、送信ボタンを押しておらなんだ!」



 モヒートは気づく。ティッシュで拭いたとき、ご操作してしまったのだろう。


 余計なメッセージまで書き込んで、送ってしまったのだ。



「ケガの功名っすねー。これで相手も油断したっしょ。攻略間近ッス」




「うむ! まっておれよ勇者めー! さて、こうしてはおれぬ! 本番に備えてひと眠りしようぞ!」



 ワンピースから着ぐるみパジャマに着替え、ブランはベッドイン。




「うがー、リキュールよ!」



 だが、またしてもリビングへとリターンした。



 



「お主が『本番』だなんて言うから、想像したら興奮して眠れなくなったではないか! どうしてくれる!?」




「知るか」 

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JKに転生した魔王 。明日、勇者とデートします 椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞 @meshitero2

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