装備を準備した

「それにしても魔王ブラン様、昨日の今日でデートって、エラい急ッスね?」


 直前の夜になって決戦の誘いがくることを、側近は気にしているようだ。



「そうでもない」


 用意された装備に着替えながら、魔王は言葉を返す。



「決闘しよう」と何度も声をかけ、今日いい返事をもらえたのだ。



「ウブだと思ってましたが、ちゃっかりアピってたんスね。見た目に似合わずマセてるッスね」


「褒めておるのだよなぁ?」


「もち。でも、そのお姿だからてっきりガキっぽくアプローチするモノだと」



 ブランは数千年を生きる魔王だが、見た目が小学生並みである。


 一方、側近リキュールはブランより年下だ。しかし、サキュバスである故か、ブランよりオトナっぽい。


 一昨日も、二人で魔獣モヒートを散歩させていたら、八百屋さんに「ブランの方が妹」と間違えられた。


 


「魔王サマ的には準備万端、あとは当日を待つのみだったんスね?」



「そういうわけじゃ。吾輩に抜かりはない」


 自慢げに、ブランが腰に手を当てる。



「本番直前になって慌てて着る服を用意している時点で、めちゃテンパってるんスけどね」


「何か言ったか?」



「いえいえ。ささ、できたッスよ」


 話題をそらすかのように、リキュールはブランの着替えをそそくさと終わらせた。



「本当に、これが一番良い装備なのじゃな?」


 


 赤に水玉のワンピースである。



「子どもっぽくないかのう?」


「魔王サマなら、これくらいがちょうどいいッス」


「シンプルすぎて、面白みに欠けぬか?」



 不安がるブランに対し、リキュールがため息をついた。


 


「あのですね、魔王サマ。かの有名な国民的バトルアニメをご存じですよね?」


「うむ。新装の劇場版を二作目まで見たわい」


 


「あのマンガ、ラスボスの最終形態がツルッパゲじゃないですか。第二形態はエイリアンみたいなのに。なんでか分かりますか?」



「当然じゃ。設定資料集まで読んだからのう」



 確か、「ずっと出ずっぱりだから、シンプルにして手の負担を軽くしたかった」からだ。



「でしょ? だから、ラスボスってシンプルな方が頭に残りやすいんスよ。子どもが落書きできる程分かりやすく」


「ふむふむ」


「あんま複雑な造形だと、『あいつ、どんな形だったけー?』ってなりません?」


「なるなる」



 思えば、今まで読んできたマンガの登場人物は、すべてシンプルな造形だった。


 たまにイカツいビジュアルの作品もあったが、その作品も敵の髪型を変えられていた気がする。


 


「ですから、印象操作をするンスよ。魔王だぞーって」



「お主の考えはよく分かったぞ。しかして、このスカートじゃが、心許ない」


 ニーソックスで隠れているとは言え、太ももが露出していた。


 短すぎるような気がするが。


 ブランは普段の制服ですら、ヒザが見える程度である。



「ちょっと背伸びしたくらいが、男の子はドキッとするんスよ!」それで油断したところを、ブチュッと」


「心臓を潰すのじゃな!」


「ちげーよ」

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