第3話 過去の鎖と虚無に消えるモノ(後編)


彼女は見せたいものがあると言ってお風呂場に私を連れて行った。

「ねぇ、何を見ても私の事を愛してくれるよね?」

彼女は不安そうな表情だった。

「うん、私もあなたのこと知りたい。どんなことがあっても諦めたりはしないよ。」

そして彼女は自身の纏っているマントを脱いだ。するととんでもないものを見てしまった。彼女には右腕が無かった。

「どう?これでも愛してくれるの?」

私は少し涙が出てしまった。自分は過去の鎖は既に解けている。でも、彼女はそれを引きずり続けなければならない。

「そんなことは無いよ。私、もっとあなたを救いたくなった。」

すると彼女は言った。

「私を救えるわけないよ。だって、私を救えるのは…」

「そんなわけないよ!」

私は彼女の卑屈な姿は見たくなかった。だって、彼女の雰囲気はまさに希望と絶望を表している。彼女には希望を与えたい。

「私はマツリちゃんを救えないかもしれない!でも、もしかしたらマツリちゃんの希望になれるかもしれないから!」

「本当?お姉さんはもしかしたら…。ううん、冗談。」

そして彼女はお風呂場に入った。


「ふぅ、とんでもない人を助けちゃった感じ?でも、私はちょっと嬉しいな。私にもあんな存在できたみたい。」

ーピンポーンー

インターホンが鳴った。私の元を訪れる人なんて滅多にいない。誰が来たかと思って玄関を開けた。すると彼がいた。

「あ!アルマ君!来てくれたんだ。」

「お前なぁ…少し手が空いたから久しぶりに来てみれば…随分厄介なの引き入れてるな。」

「厄介とは何よ!アルマなんか勝手にどこかに消えて、帰ってきたと思えば神様になったなんてとんでもないこと言い出して…。」

「まぁ、俺の事は置いておく。それより今お前が匿っているのは最近この辺りで起こっている食人事件の黒だ。ま、呪われた暴食の悪魔ってところか?」

私は彼の言っていることに腹を立てた。

「あの子が悪魔だって!あんな可哀想な子を差別するなんて…!」

「まぁ待て。差別している訳では無い。だから、彼女が抱えているものはお前には重すぎるってことだ…。まぁ、お前には言っても無駄だろうが。」

「ふーん、なら少し会ってみる?丁度あの子にアルマ君の話をしようと思ってたから。」

そう聞くとアルマは少し考え、言った。

「残念ながら今じゃない。あと1つ言っておく。俺達の今の状況を絶対に言うなよ。じゃあ、日を改めて来る。」

そう言って彼は去っていった。


リビングに戻るとマツリちゃんが戻って来ていた。

「誰か来ていたの?」

「う、うん。そうだね。」

そう答えるとマツリちゃんの雰囲気が変わった。

「ねぇ、誰が来ていたの?ふふ、只者じゃないのは分かっているよ。隠していることはない?」

その時のマツリちゃんの右目はやはり白い部分などない、真っ黒で自分が吸い込まれていきそうな目だった。

「えっと、さっき言った幼馴染の彼が来ていたの。」

私は意図もせずに自然と話していた。

「へぇ、あなたの幼馴染は悪い人なの?」

彼女は笑っていた。そして、私は反射的に言った。

「アルマ君は悪い人じゃないよ!確かに意味が分からないことを言ってたり変なことを言ってたりするけど、それも全部見据えた上で行動するかっこいい人なんだから!」

マツリちゃんはきょとんとしていた。

「え?…悪い人じゃないの?驚いた。あなたのその人に対する想いもその人のことも。力を持っている人は大体汚い大人だったり悪い人だったりするから。」

「そんなことないよ!アルマ君は今は神様なんて言ってるけど、そんな人じゃないよか。」

「神様…ね。ねぇ、その人の妹ってどんな人?」

「え?まぁ、アルマ君にずっとくっついているけど、ちゃんと頼めば何でもしてくれるし、笑ったり泣いたり怒ったり…普通の女の子だったよ。それよりなんでそんなこと聞くの?」

「えっと、その子と似てたから、お姉ちゃんが。」

「え?そうなんだ。」

「その意味分からないでしょ。普通の人だから仕方ないか。」

その時、外からゾッとする感じが流れ込んできた。

「あれ?ちょっと寒くなってきたね。暖かくしようか?」

「いや、ここにいて。あなたに迷惑かけたくない。」

そう言うとマツリちゃんは外へ向かった。

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