第5話 ドーヴァー城の船講義
「シントウ流剣術『其の参
「遅い!!『乱』は浅い斬撃を素早く食らわせることで相手を翻弄させる技ですよ!!水のごとく流れるように次の攻撃に繋げなさい!!」
そんなことはわかっている。
だからこそ、アイシェンはこの攻撃の中に一つ、あるカラクリを仕込んだ。
現在、右手で刀を振り、サンがその何十何百と繰り出される剣撃を慣れたようにかわしている。
そこをつく。
サンが乱の攻撃をかわした直後に、アイシェンの左手に仕込んでおいた魔力銃で彼女を撃つ。
ここまで気付かれないように、アイシェンは武器を仕込んでいた。
不意打ち。
これならせめて、サンに掠るくらいはするはずだ。
満を持して、魔力銃の引き金を引く。
魔力で作られた弾丸がサンの右足を狙った。
「フフッ」
サンは跳んだ。
左足で飛び、右足を折り曲げ、遠心力とサンの馬鹿げたパワーを使った強烈な回し蹴りをアイシェンに喰らわせた。
彼は突然の事に防御する暇もなく、後方に吹っ飛ばされた。
「ぐはっ!」
「はいそこまで。ふむ、ギリギリまで相手にもう一つの武器を悟らせずに不意を打つ戦法、なかなか様になってるじゃありませんか」
「ど、どうも……でも避けられた」
「魔力銃を撃つ直前、攻撃が右手の刀から左手に視線が移った。あれでは初見だとしてもバレバレですよ。逆に言えば、撃つ直前まで悟らせないようにすることには成功しているわけです。あとは、それを攻撃したあとも継続できるようにすることですね」
「くっそぉ……ありがとうございました」
一言お礼を言ったあとで、アイシェンは撤収し始める。
今回の修行は、複数の武器を持ち始めたアイシェンがそれらの武器を一度の戦闘で発揮するための修行だ。
以前まで使っていた刀、拳や蹴りなどの近接格闘。そこにナイフという近接戦闘を更に強化させる武器と、魔力銃という遠距離をカバーする武器を入れる。
全距離において隙がないように感じるが、それはこれらの武器の能力を活用できたときだけ。
アイシェンには、少々難しい。
それだけではなく、遠距離のときには魔力銃、近距離ではナイフとはっきりと使い分けるようでは、相手に対策もされやすい。
だからこそ、何時如何なるシチュエーションのときでも、自分が持つ武器を使って相手を倒す。近距離のときに銃を使うような、相手の想定外の行動をする。
そうするだけで、彼の実力は更に上がるだろう。
「手のひら収納の魔術はずいぶん手慣れてるんですね、魔術の先生が上手だからですか?」
「あー……かもしれない。マーリン先生は忙しいから、時間を作ってもらうこと自体稀だけど、その分あの人の教えはわかりやすく感じるかな」
「ふーん、へーえ、ほぉーお。そーうでーすかぁー」
「なにサン先生、もしかして拗ねてる?」
「いーえ?べーつにー??」
ものすごくわかりやすく拗ねている。
彼女はアイシェンよりも長く生きているはずだが、それでも精神年齢は子供に近い。
「そういえば、午後からジークさんと予定があるんでしたよね」
「あぁ、ドーヴァー城の持つ船の確認です。俺が乗る船も見ておきたいし」
「私も一緒に見ていいですか?」
「別にいいですよ。時間だとそろそろ……おっ、来た」
二人の元へジークフリートが近づいてくる。
このドーヴァー城内で最も武器について詳しいのは彼女だ。
無論、所有してる船や武器の名称ならば、スサやテルラも詳しいが、それぞれの特徴ともなれば、ジークフリートの方が詳しい。
参謀である彼女は、誰よりも先に、自分のいる城が持つ武器について把握している。
「二人とも、修行お疲れ様。それじゃあ行きましょうか」
***
武器について理解することは当然の行動だ。
特に、船や戦車といった乗り物は、使い方やその特徴を知らないだけで戦局を左右する。
「ありがとなジーク、お前も忙しいだろうに」
「まぁね。でも、いざ戦争が始まって船の戦法を知りませんでしたじゃあ、私の考えた戦略が台無しになるもの。それはブリタニアの足を引っ張ることになる」
確かにそれは気を付けなければならない。
アイシェン達は余所者ということもあり、まだ国民からの信頼は低いのだから。
信頼を得て偉くなりたいというわけではないが、無かったら彼らの活動に支障が出る。
「それに昨日はありがとう、本当だったら俺がガラハッドの相手をしなきゃならなかったのに」
「いいえ、けっこう楽しいひと時を過ごせたわ」
「そっかぁそれは良かった。でもその時の女子会ってやつで食べたケーキのこと、まだ許してないからな?」
「そ、それはごめん……」
「ケーキ?あぁ、昨日アイシェンさんと私で海戦についての打ち合わせをしてた時に食べられたっていうあの。それはそれは……仕事してた人を尻目に食べるケーキは美味かったですか、参謀殿?」
「美味しかった!!」
全力でヒトを煽るように向けるジークフリートの笑顔。
二人は彼女の頬を左右からつねった。
「いひゃいいひゃい!!あっ、
「うん?」
二人は手を離す。
「いてて……、昨日の打ち合わせって、何を話してたの?」
「簡単なことだよ。東の海の防衛と、フランクが突然攻めてきたことについてを含めた情報収集をモルドレッドがやって、西の海の防衛をランスロットさんが担当するっていうだけ。あ、あとそれから俺たちと一緒に戦うのはガラハッドだけじゃなくて、トリスタンさん……だったかな?も、一緒に戦ってくれるみたいだ」
「なるほど……」
ジークフリートは少し考える素振りをする。
トリスタンは信用戦争でサンと戦った弓使いの男である。
そして、風属性の技を得意とし、信用戦争では、風で作った見えない矢を名具『フェイルノート』で作り出し、激戦を繰り広げた。
「あの人がいれば風に乗せて船を進めることもできるし、そもそも弓矢は防衛向きの武器。海戦をする上では、これ以上ないサポート役ってことなのね」
「さっすがジーク」
「更に言えばサンちゃんの使う矢と、あの人の見えない矢を組み合わせれば、敵の混乱は必至。これは、作戦が立てやすくなったわ」
「お、おぉう……」
「なに引いてるのよ。さて着いたわ。ここが、我らがドーヴァー城のドッグよ」
そこにはロマンが広がっていた。
ずらりと並べられた大きな船。全部で50か60隻くらいだろうか。
一見すると、最初にオリジナルのものが作られ、そこから最初に作られたその船を模倣するかのように量産型が作られている。
しかし、よくよく見れば、船頭に角がついているもの、オールの数を増やして速度をあげようとするもの、木製だけでなく一部を鋼鉄製にして防御力を上げているものなど、一つ一つの船に正確がある。
ドッグにあるという船の種類は、恐らく二種類。
アイシェンたちの手前側にある、一本だけの帆で進み、小さいながらも力強さを感じるもの。
奥側にある、1、2本の帆と多数のオールで進み、石弓や大砲が備え付けられているもの。
「手前にあるのはコグ船。海戦が行われたときには、この船の体当たりが主な攻撃方法になるわ。そして奥のはガレー船。こっちも体当たりが主流。コグ船よりも多くのオールを使うから速さも上だし、大きさや頑丈さもこっちのほうが上」
あまり数は多くないけどね、ジークフリートは続けた。
ガレー船の方についている武器の数々は、あくまでも牽制の一つであり、それを主たる攻撃法としては使わない。そもそも命中精度は高くない。
「帆で進む船は、風のない日には使えないという欠点はありますが、トリスタンさんの協力も得られるという話でしたのでその点は心配ない。でしたら、アイシェンさんがガレー船に乗って安全に戦争に参加するという方が――」
「いいえ、アイシェンくんはコグ船の方に乗ってもらうわ」
サンはすかさず反応する。
「はい?アイシェンさんを最前線に送り込むと?」
「そうよ。コグ船の最大の弱点は敵船が何度も体当りしないといけないほど頑丈に作られていた場合に弱いという点。そこを、乗員が乗り込めるように様々な道具を備えているという対処法は取っているけども、肝心の戦う人が強くないと話しにならないわ」
「ふむ……」
「サンちゃんは武器で考えて後方支援。私は論外だしバルムンクは武器の性質上、私から離れることができない。可能なのがスサくんやテルラちゃんといった兵士と、アイシェンくんや邪竜みたいな隊長格だけ」
「ではファフニールさんだけを配属されては?」
「それじゃあ駄目よ。少なからず相手に損害を与えるには、二人を起用すべきだわ。それに、二人はフランク王国についてどれくらい知ってる?」
二人は首を横に振った。
ジークフリートはハァとため息をこぼす。
「フランク王国には強い海軍はいない。しかし、それでもあの国は農業と工業で栄えた国、頑丈な船をたくさん作ってるし、金もがっぽがっぽ手に入ってる。まぁ、人手が足らないから、少なくともブリタニアの艦隊より多く配備してくる、ということはないでしょうけど」
「えっと……ジーク、それのなにが?」
「強い海軍はいないが船は強いということは、フランクの海軍を倒すには内部からの破壊しかありえないの。そこで、戦闘民族シントウと、普通の竜種よりワンランク上の邪竜様が攻め込んでくるとなれば?」
「向こうの船を制圧できる!!」
ジークフリートはニヤリと笑った。
「まぁ、もう少し船を使った戦術とかについて話せたら良かったんだけれど、流石に話し過ぎは控えたいわ。どこにスパイがいるか、わかったものじゃないから」
「なるほどそれは大事だ……なぁジーク、あの大砲ってどれくらいの威力なんだ?これから船に乗って乗り心地を試すんだろ?な?な?ちょっとだけ見せてくれないかな?」
「おっ、試射ならお任せください。だてに弓矢で射撃能力は鍛えられてませんよ、大砲とか石弓程度ならいける気がします!!」
まるで子供のようにはしゃぐアイシェンとサン。
ジークフリートがため息交じりで「仕方ないわね」と返す。
その後ウキウキで船に乗り込んだ二人だったが、開始数分で船に酔ったのは言うまでも無い。
そんな状況でもサンが試しに射った石弓の命中精度は見事なものだったという。
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